PICK UP 今号の企画

鍛圧板金加工とデジタル革新

企業変革力、デジタル技術で強化

―今号(7月25日号)の紙面特集より、鍛圧板金加工とデジタル革新を掲載―。
28559
 予期せぬ新型コロナウイルスのパンデミックに、世界中の経済が翻弄(ほんろう)されている。自動車をはじめ各種産業の設備投資に急ブレーキがかかり、鍛圧・板金加工機械の業界も需要減が著しい。一寸先が読めない「不確実性」の時代が到来した今、メーカー各社は、そしてユーザーはどう挑むのだろうか。「持続成長に向けた企業変革のカギは、デジタル革新にある」。今年のものづくり白書の提言をベースに、自動化やIoT・AI技術の徹底活用に向けた業界の動きを2号連続で追う。

中国市場に回復の兆し

 (一社)日本鍛圧機械工業会が7月8日に発表した鍛圧機械の6月の総受注額は、前年同月比14.5%減の216.2億円。5月の同64.6%減に比べれば、崖っぷちを駆け上った感はあるものの、16カ月連続の前年割れは「ワースト記録」だ。
 昨年から続く米中貿易摩擦、自動車業界の設備投資抑制トレンドに、コロナ禍が追い打ちをかけた格好。ただ、経済活動の再開が早かった中国向けの輸出は6月、前年比3.5倍と回復傾向が見えた。
 日鍛工の中右豊専務理事は「中国向けの6月の受注はここ1年の最高額。機種別で前年比15倍に大きく伸びた超大型プレスの大半は中国向けだろう。外板・骨格やモーター関連など、自動車の新設ラインの投資がようやく動き出したのでは」とみる。その一方、ボリュームゾーンの国内や欧米は低調で、日鍛工受注の約6割を占めるとみられる自動車関連は厳しい冷え込みが続く。
 日鍛工では4月に今年の受注予測を前年比31.2%減の2250億円と年初予想(同1.5%増の3350億円)から大幅に引き下げた。「中長期でみれば自動車のEV化・軽量化に向けた新設投資に期待は大きい。国内や欧米の市況や政策の動きを注視したい」(中右専務理事)。

急加速する自動化ニーズ

 統計上では一見、業界全体がまんべんなく受注激減の冬の時代を迎えたように見えるが、自動車ライン向け大型機メインのメーカー以外では実は、比較的堅調と言える分野も少なくないようだ。
 メーカーへのヒアリングでは、「開発・試作のニーズが高いためか、落ち幅は業界全体ほどではない」(放電精密加工研究所)、「当社のレーザー加工機事業の受注はここ数カ月、前年比2割減程度と健闘している」(三菱電機)、「自動車以外にも需要業種が多く、補助金関連や学校入札向けで結構なボリュームが維持できている」(相澤鉄工所)の声。中には「半導体・医療関連などで認知度が向上し、精密微細レーザー加工機、炭酸ガスレーザーSAM+小型ファイバーの売上は伸長している」(澁谷工業)と新市場開拓の事例もあった。
 全体をみて、特に堅調さを維持しているのは、自動化・省人化対応を強化したマシンではないだろうか。協和マシンの吉田保雄社長は「コロナ禍の前と比べて、若干の計画後ろ倒しはあっても、受注件数自体はそう変わっていません。むしろ自動化・省人化ニーズの加速を強く感じています」と
話す。
 協和マシンの主力製品であるL曲げ加工機「KMPシリーズ」は、金型を自動交換しながら多品種かつ高精度な曲げ加工に対応できる。熟練者を現場に介在させる比率を減らせるのが特長で、「人と人の接触を最小限に」という感染拡大防止のニーズにピッタリ合ったそうだ。
 同社ではコロナ禍による移動・訪問の制限を見越し、メンテのネットワーク対応のトライアルも開始した。KMPシリーズはカスタマイズ対応が多く、納入初期の問い合わせが多くなりがちだが、遠隔保守対応によりサービスの効率化を図り、ユーザーから「いつでも問い合せしやすい」と好評を得ている。
 コマツ産機でもロボットとサーボ機を用いたシステムで中小ユーザーへの自動化アピールを強めている。昨夏開催された展示会「MF−TOKYO」ではビジョンシステムと小型ロボット3台を搭載したサーボプレス「H1F 200−2」を展示し、ランダムに置かれたブランク材を自動でピッキングして連続的にプレス加工して見せた。
 同社によると「単眼2Dカメラでブランク材の傾きを0・8秒ほどで判定するシステムを採用した。3Dカメラを使う場合より検出時間を約4分の1に、導入コストを約2分の1に減らせる」などメリットが大きい。

IoT、導入検討の好機

 人手不足対応と感染症対策に向け、現場や設計、生産管理の人員を減らしたいというニーズは強い。なおかつ、生産性と品質を維持向上するには自動化マシンの導入のみならず、デジタル技術の活用が欠かせないと言えよう。ほとんどの加工現場が繁忙に遠い今は、実は抜本的な生産改善に取り組み始める最適のタイミング。メーカー各社が提案してきたIoTサポートの活用に、改めてスポットがあたっている。
 三菱電機で好評の遠隔保守サポート「Remote4U」については「この4月以降、爆発的に利用件数が増えている」と言う。「コロナ禍の前は『サービスマンが来た時に聞けば解決する』と考えていたユーザーが多かったようですが、訪問の制限や自粛が続きましたからね。『Remote4U』で当社のオペレーターにつなげばすぐに、単純なメンテはユーザー自身でもできますし、加工の疑問を解決できる点も好評です。工場内にネット環境があるユーザーは多く、レーザー加工機の新製品(GX−Fシリーズ)での同サービス加入率はほぼ100%です」(同社)。
 IoTサポートは現場ニーズを吸い上げながら、着々と進化を続けている。コマツ産機では、プレス機の稼働状況をネットワーク上で管理できる「KOMTRAX(コムトラックス)」システムにおいて新たに、4つのメニュー(過負荷モニター・荷重トレンド・自動タイムスタディ・ドライブレコーダー)を追加する予定だ。「ユーザーの機械の止めない化と生産性改善をサポートする」としている。

中堅・中小も、革新に本腰

 稼働状況の「見える化」や遠隔保守などのIoTサポートは、大手メーカーの勢いが強い。板金業界では大手のアマダの「V-factory」やトルンプの「TruConnect」が代表格として知られる。「TruConnect」では最近新たに、GPSマーカーを活用し、切断・曲げ・穴明け・納入まで一貫した製品トレーサビリティ管理も提案し始めた。
 前述の三菱電機では「Remote4U」のほかにも、IoT を活用した次世代の FA 統合ソリューション「e-F@ctory」があり、業界連合の「Edgecrossコンソーシアム」の盟主としても活躍する。
 さまざまなサービスを次々打ち出す大手の狙いは、自社ユーザーの囲い込みの意図も大きい。その一方で、中堅・中小メーカーは、大手の激流にただ飲み込まれるままでもない様子。このコロナ禍で、IoTサポート拡充に本腰を入れ始めたメーカーも少なくないようだ。
 左上で紹介した相澤鉄工所はその代表例の1つ。協和マシンでも、昨年12月に開設したテクニカルセンター(石川県)に前述のアフターメンテの遠隔化に向けたIoTサポート用のシステムを設置し、さらに5G対応を見据えたサーバなども整備する方向にある。
 「ユーザーの許可を得られる範囲で稼働データを収集蓄積し、将来的にはアラーム解析による故障の事前予知や加工アドバイスなどの独自のIoT機能を拡充します。コロナ禍を経て、ユーザー側でもセキュリティへの漠然とした不安の壁が一気に下がったのでは。ネットワークを有効活用しなければ、生き残れないという意識が高まっている」(吉田社長)。
 また、IoTサービスの新たな潮流として注目度が高いのは、放電精密加工研究所によるデジタルサーボプレス機「ZENFormer」の「シェアリングサービス」。8月竣工、11月稼働予定の大和事業所(神奈川県大和市)に同シリーズ数台を設置した専用ラインを新設し、ユーザーが時間制で利用できる仕組みを整える予定。加工データもクラウド経由で提供し、開発・研究もリモートで行えそうだ(詳細は次号掲載予定)。
 ほかにもデジタル関連では、設計・金型・曲げ工程の遠隔管理を高効率化するクラウド活用サービス(キャドマック)、ユーザー自前のIoTシステムによる工場間連携や溶接のリモートワーク化など、現場の悩みを解消して生産性を高める先進事例や新サービスが生まれ始めている。今回の紙面で紹介しきれない新潮流は、次号で紹介予定。しばしお待ちを。