識者の目

中国自動車産業の現状と見通し

世界の新車需要を先導

■中国市場は世界の新車生産・販売回復を先導
 2019年12月に中国武漢で確認された新型肺炎は、1月23日の武漢市封鎖のニュースで激震に変わった。その後3月11日にWHOはパンデミック宣言をするに至ったのだ。新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は世界的な経済危機を引き起こすこととなった。
 季節調整年率換算レート(SAAR)でみたグローバル新車販売台数は、20年2月に前年比9%減に転じ、3月は同37%減、4月は同41%減で底を付けたが、5月は同30%減、6月は同16%減にまで改善を示している。過去最大の経済危機と言われながらも、新車の需要回復は確かに順調に進捗しているのである。
 短期的な需要のV字回復は可能だと考えてきた。根拠には、ロックダウン政策で先延ばしされた新車需要が解除後に顕在化する「遅延需要効果」、政府の需要促進策による「前倒し需要効果」、感染防止のため公共交通分担率が低下し「自家用車の移動価値が増大」の3つの理由があるためだ。事実、中国ではマイカーブームが来ているし、米国では不況下に高額なSUVやピックアップが飛ぶように売れている。
 世界の新車需要を強く牽引しているのが中国市場である。ロックダウンの解除後、4月の中国新車販売台数は同4%増へ実に18年6月以来のプラスに転換した。5月、6月は二桁の成長を続けてきた。この背景には、商用車需要の増大、都市部での高級車販売増加、地方の小型車の販売がある。一方、補助金が減らされてきた新エネルギー車(NEV)販売は不振が続いている。
 政策的な支援もある。3月に中国政府はNEV購入補助金支給を22年末まで延長を決定し、同時にナンバープレート規制の解除を奨励することを発表し、多くの都市が追加発行を実施した。「国6」排ガス規制の全国施行の延期も決定している。地方政府レベルでは内燃機関車に含めた補助金も発動している。これが、都市部での高級車や感染防止で公共交通機関利用を避ける地方の小型車需要に火をつけている。

■中国市場の中長期展望
 6月下旬から長江洪水の影響が拡大している。長江流域の11省は全国乗用車販売全体の36%、被災が厳しい安徽、湖南、湖北、江西、重慶の5省市は同13%を占める。この影響も見定めなければならない。ただし、当面は構造的に新車購入への関心は強まると予想する。
 新車情報サイト「汽车之家」のウェブ検索が活発化するなど、新車購入の関心向上を裏付けるデータがある。高速道路の利用回数が拡大を続け、地図情報の「百度地図」の検索件数が大幅に増加するなど、自家用車の利用が高まっている。
 17年をピークに不動産価格調整や、輸出依存型の地方経済の構造対応などと連動して中国新車市場は、長期的な減少局面に入っていた。コロナの影響を受け、シェアリングニーズが後退、公共交通分担率低下を引き起こしたことで、中国の新車需要は成長局面に回帰すると予想される。22年には19年比で108%まで回復すると予想している。米中貿易戦争や、欧米を中心とした中国からのサプライチェーンの見直しの動きも加わる。長期的に自動車の生産・販売の成長を持続するには、中国国内の政治・経済の安定化は不可欠だ。

■コロナショックの特徴とその出口なる構造変化
 リーマンショックとコロナショックには、「カネ」の停止と「ヒト・モノ」の停止という本質的な相違点がある。リーマンショックは金融システム危機が発端となり、需要後退→生産調整→業績悪化の負の連鎖が続いた。コロナ危機では、武漢封鎖を発端とした中国サプライチェーン危機が始まりにあったが、パンデミック化で「ヒト」と「モノ」の停止が同時に起こった。世界中の社会・経済活動が封鎖状態になったことで、歴史的な不況を引き起こしている。
 リーマンショックでは、金融システムを回復させて「カネ」が回り始めれば経済は本格的なV字回復へ向かった。世界中で新車需要喚起策が発動され、世界販売は危機から僅か12カ月で危機前の水準に回帰している。コロナでは抗ウイルス剤、ワクチンなどが必要だと考えられるが、いずれも少なくとも1-2年の時間を要すると言われている。
 さらに、コロナ危機は、出口の姿とそこに達するまでの時間がはっきりと見えないことが最大の特徴である。停止した「ヒト」と「モノ」は動き始めたが、どの様な価値観と生活様式で再生していくのか、回復のロードマップは幅広いシナリオを考えていかなければならない。
 世界の需要は危機前の水準に需要回復は出来るだろうが、問題はそこから先なのである。世界的に一定のリモートワークが定着し、移動に占める公共交通分担率が低下し、脱都市化が進展し、新車の開発から販売、サービスまでデジタル化やオンライン化が進み、コロナ危機下で見つけた全く新しい効率と価値観が人の移動を支配するとき、自動車産業へは想像以上に重大な構造変化が起こると予想する。中国自動車産業で起こる変化は世界の変化を先導すると考えられ、大いに注目するところだ。

ナカニシ自動車産業リサーチ代表 中西 孝樹