PICK UP 今号の企画

DX:デジタルトランスフォーメーション

デジタル変革が導く製造業の未来

―今号(9月25号)の紙面特集より、DX:デジタルトランスフォーメーションを掲載―。
デジタルトランスフォーメーションとは?
 デジタル技術を利用してビジネスを変革し、新たな利益や価値を生みだす機会を創出する――。
 従来、好きな曲を聴くためには音源をCDの購入やネットからのダウンロードで購入する必要があった。だが、ストリーミングであれば、いつでも好きなときに聴くことができる。さらに、個別購入するのではなく、月額定額(サブスクリプション)で様々な楽曲が聴き放題になるなど、音楽の楽しみ方は大きく変貌した。
 このように、長期的な視野でプロセス全体をデジタルで最適化し、高い競争力を持つビジネスモデルを構築することが、デジタルトランスフォーメーションである。日本の製造業が、グローバル競争力を勝ち得るためにも、いまこそ変化していかなければならない。

DXを実現する「Society 5.0」とは?

 「Society 5.0(ソサエティ5.0)」は2016年1月に閣議決定され、政府が策定した「第5期科学技術基本計画」のなかで提唱された新しい社会のあり方だ。内閣府ではサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会と定義している。

 人類の歴史を紐解くと、狩猟社会がSociety 1.0、農耕社会がSociety 2.0、工業社会がSociety 3.0、そして現在の情報社会がSociety 4.0と定義づけられており、これに続く5番目の社会システムがSociety 5.0になる。
 これまでのSociety 4.0では、人がサイバー空間に存在するデータベースにインターネットを経由してアクセスして情報やデータを入手し、分析を行ってきた。それゆえ知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が行われてこなかった。だが、Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされる。それによって、従来は出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされる。
 Society 5・0で実現できるものの具体例として、自動運転車の実用化が挙げられるだろう。自動運転車の運行には、自動車のみならず自転車や歩行者など、あらゆる移動物の移動状況をリアルタイムで把握し、情報共有できることが大前提となる。そのために必要なのは、多数のセンサ類とビッグデータを処理できる通信網、そして適切な回答を瞬時に導き出すAI機器となる。これらがシームレスに繋がることで、新たなスマートモビリティ社会を実現する。
 同様に、ロボットやドローンの普及で、危険リスクの高い作業や肉体を酷使しなければならない労働、男女差や年齢差といったバイアスのかかる作業の自動化や遠隔操作を実現できるようになる。

■熟練技術の継承も可能に
 Society 5.0を実現するための要素技術として挙げられているのが、(1)CPS(Cyber-Physical System)における知覚・制御を可能とする人間拡張技術(2)革新的なAI用ハードウェア技術とAI応用システム(3)AI応用の自律進化型セキュリティ技術(4)情報入出力用デバイスおよび高効率のネットワーク技術(5)マスカスタマイゼーションに対応できる次世代製造システム技術(6)デジタルものづくりに向けた革新的計測技術の6点。
 これらの要素技術が発展することにより、製造業も大きく変化する。ビッグデータに保存した膨大な需要や物流情報をAIで分析することで、新しい生産計画や在庫管理方法が生み出されていく。品質管理やトレーサビリティの部分においても、デジタル技術の活用によって、これまで以上に安全、安心な製品を供給できるようになる。
 AIとロボットの組み合わせによる自動化にも拍車がかかるだろう。生産の効率化や人手不足の解消はもちろん、熟練技術の継承も可能になっていく。これらの取り組みはすでに様々な企業によって行われており、今後はいかにブラッシュアップされ、普及していくかが課題となるだろう。

富士通、ものづくりDX、データ制御と活用の新ステージへ

 デジタル技術とデータを駆使し、サービスやビジネスプロセスの変革を導き出す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。ICTベンダーの富士通は「ものづくり変革の鍵はDXにある。人手不足や品質向上要求、競争激化などの従来課題にコロナ禍が加わり、データやクラウド活用に本腰を入れようとの機運が高まっている」と言う。

 約2500種類ものネットワーク機器を生産する超変種変量生産の工場で、現場データを収集解析し、生産設備の停止を予知してダウンタイムを最小化する。あるいは、高速画面転送技術や知見のクラウド共有などで、テレワーク中も出社時と同様のスピーディな製品開発を可能にする――。これらは、富士通グループ内での「ものづくりDX」の成果の一例だ。
 従来はスマートファクトリー化やサイバーフィジカルシステム(※)と呼んできた、デジタルソリューションの延長線上に、富士通の「ものづくりDX」がある。同社が掲げる「ものづくりDX」の売上目標は2022年度に19年度比30%増の2000億円(PLM製品など含む)。事業加速に向け、ものづくりDX関連のソリューションを「COLMINA(コルミナ)」ブランドに統合した。
 COLMINAのサービス基盤は、データの(1)収集、(2)蓄積と一元管理、(3)分析やシミュレーションによる活用―の3階層の構成。直近で14種類のアプリケーションテンプレートがあり、客先での実践から進化を重ねている最中だという。
 このコロナ禍でDXへの関心も高まっているようだ。「人の接触を最小限にしながら事業を継続するには、どこからでもデータにアクセスしやすいクラウドを使ったサービスのメリットが、セキュリティへの漠然とした不安に勝るのでは」(富士通 産業ビジネス本部 ものづくり&ERPビジネス推進統括部 戦略ソリューションビジネス部 部長・森脇寿子さん)。感染症対策の一貫として急速にニーズが高まっている設計のテレワーク化に向けては、自宅PCでもサクサク動く3次元CAD(iCAD SX)などの設計支援ソリューションを2020年8月末までの期間限定で無償提供した。

(※)サイバーフィジカルシステム=実世界の多様で膨大なデータを収集し、サイバー空間で定量的に分析することでより産業の高度化や社会課題の解決を目指すサービスおよびシステムのこと


AIが熟練者の代わりに
 COLMINAについては昨年あたりまでは現場や業務部門のデータを可視化して生産性向上につなげる事例が多かったようだが、「最近、問い合わせが増えているのはAIの活用。収集したデータを解析し、現場業務へ適用することで、人間が気づかない部分の課題解決や省人化につながり始めてきました」(同)。
 注目度が高いのは、従来は熟練者の勘と経験に頼っていた生産計画立案作業にAIを活用する取り組みだ。特急オーダーやコスト、設備稼働状況など、現場で発生する様々な制約条件、優先すべき条件を加味した最適な生産計画を自動で立案できるもので、既に複数社がサービス導入検討に入った。
 「生産計画立案の他にも、目視による良否判定を行う検査工程へのAI画像判定適用や、作業熟練者の動作を映像で記録し、自動解析することで、技術伝承へ活かす、などの検討がすすめられています。AIには、通常、大量の学習データが必要ですが、当社では、少ないデータからAIモデルを作成する技術により、こうしたニーズに対応しています。言語や画像の解析など様々なAI技術を『Zinrai』の部品を活用し、汎用シナリオを備えつつ、市況変動や個別ニーズに合わせてカスタマイズとチューニングを行っています」(同)。