オヤジの喜怒哀愁

2014年6月10日号

ペレの苦笑い

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 パソコンを触っていたらどこかの航空会社のCMが流れた。
 フライト中の航空機の化粧室から男がひとり出てきて、ドリンクバーで何か注文している。どこかで見たことのある二枚目と思えば、ポルトガル最高のサッ カー選手といわれるクリスチャン・ロナウドである。長い足をはさみのように交差させてディフェンスを抜き去る「シザーズフェイント」が得意のプレーだ。6 月12日から7月13日まで開催予定のFIFAワールドカップでも最も活躍が期待される選手のひとりである。近くに座っていた乗客が気づいて「おい、ロナ ウドだよ」とささやいている。
 ドリンクバーに年輩の黒人男性がやってきて、ロナウドと何やら談笑している。そこへサッカーファンの若い男がやってきて「写真を一緒に撮ってもらっても いいですか」とたずねる。ロナウドは気安くオーケーする。若い男はカメラを黒人に渡して、ロナウドと一緒に写真に収まり高揚して去ってゆく。苦笑いしてい る黒人にロナウドが軽くウィンクする。
 これだけなのだが、このCMがおかしいのは、カメラマンを引き受けた年輩の男性がペレなのである。ブラジル代表のエースとしてワールドカップに3度優勝、「サッカーの王様」といわれるあのペレである。悲しいかな若いサッカーファンはそれに気づかない。
 今大会は20回目の記念大会で、1950年以来、64年ぶりにブラジルで開催される。そのときペレは9歳だった。地元ブラジルは順調に勝ち続け、いまの ように決勝がトーナメント制ではなかったため、最終戦に引き分ければ優勝が決まる状況だった。だが、ブラジルは終了間際に失点し優勝を逃してしまう。今も 語り継がれる「マラカナンの悲劇」である。悲しみに沈む父親に「いつか僕がブラジルを優勝させてあげる」とペレはいったという。
 現時点の世界ランキングは1位が前回覇者スペイン、以下ドイツ、ポルトガル、ブラジルと続く。日本は47位である。サッカー王国ブラジルでどんな熱い戦いが待っているのか、今から楽しみだ。

 

中原亭(なかはら・てい)…金融、工業系と紙誌の編集を経て田舎暮らしにチャレンジ。現在、地方紙コラム執筆・地域雑誌編集のかたわら、田んぼを耕作。5人の子持ちオヤジ。