オヤジの喜怒哀愁

2015年9月10日号

突堤の青年

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 家から車で10分ほどの町に出て、少し時間が空いてしまうことがある。一旦家に帰るほどではないが、といって次の場所にいくには早すぎる。そんな時よく海に出る。べつに何するでもなく時間をつぶす。どこにいても海が身近にある海辺の暮らしならではのよさである。
 海岸には誰かしらがいる。同じように所在なげに浜辺をうろつく人がいれば、犬を連れて波打ち際を散歩する人がいる。堤防には大体釣り人がいる。その周りには、あいにくきょうは釣り竿を持ち合わせていませんが、といった感じに釣り好きの連中がたかり、わいわいやっている。通りがかりにバケツの中の釣果を覗き込む人がいる。
 突堤の中程に高校生らしき男子がひとり座っていた。その横には大きな鞄。学校で何かあったのだろうか。うつむき加減で、なんとなくふさいでいる感じだ。家に帰りたくないのか。それとも塾までの時間つぶしか。
 男子がやや動揺したように急に立ち上がり、突堤を戻ろうとした。彼の視線を先に辿れば、同年代の男女が仲よく手をつないで歩いてくる。
 ははーん。なんとなくバツが悪い彼の気持ちはわかるような気がした。緊急避難して戻ろうとした彼だったが、くだんの男女が突堤の根元のところで腰を下ろしてしまった。退路を断たれた彼は再びドサッと座り込む。ついていない時というのはそういうもんだ。
 さっきまで何か悩んでいたようにも見えたが、こうなるとその男女のことが気になってしょうがない彼。気にしていない風を装っていても、チラチラ様子をうかがっているのはこちとらにはお見通しなのである。
 そうこうするうちに、なんということだ、その女の子は一度立ち上がったかと思うと、連れの男の子の太腿の上にお尻を乗せて横向きに座ってしまった。
 ダメを押された悩める青年は、その時、明らかにガクンと力を失った。そして、観念したかのように立ち上がると、まるで犬が恐い子がそうするように、堤防の端っこを男女を遠巻きにして歩いて帰っていった。
 こみ上げる笑いを堪えながら、大丈夫、海を見にきたロマンチストの君にはこれからたくさんの出会いが待っているよと背中から声を掛けてやりたい衝動に駆られたが、さすがにやめておいた。そんなことをいったって、今の彼には何の救いにもなるまい。