オヤジの喜怒哀愁

2015年9月25日号

納税者番号

5367

 その昔、スウェーデンを旅した時にこんなことがあった。
 公園のベンチに座っているとアジア系の移民らしき若い女性がなにやら紙をもって近づいてくる。首からはIDカードをぶら下げている。赤十字に寄付してくれと言う。
 最初は断っていたのだが旅先の気楽さで寄付することにした。お金を渡そうとすると、現金は受け取れない、銀行振り込みの書類に記入せよ、と言う。英語で書類を書くのも面倒なので、このお金を君に託すから代わりに寄付しておいてくれと言うが、頑としてそれはダメだと言って受け取らない。なんと立派な明朗会計主義なのだろう。
  仕方がないので書類に記入しはじめた。名前だとか住所だとか書いてゆく途中でツーリストだとわかると彼女はリーダーに1度聞きに行き、大丈夫、このシステムは海外でもワークすると言って戻ってきた。
 一番最後のほうに口座番号を記入する欄がある。ケタ数がやたら多い。10ケタぐらい余ってしまうので躊躇していると「そこは納税者番号よ」と彼女。何だそれは、と聞くと「税金を納める時に記入するあなたの番号があるでしょ」と言うので、そんなものは日本にはないんだと言うと、信じられないという顔をした。
 スウェーデンは納税者番号を導入し、国民の財布の中身をがっちり管理し、重い税負担を課している。旅行中、酒、タバコの嗜好品の高さには閉口したものだが、一方では高福祉国家を実現した。忙しい日本とは対照的に、人々もゆったりと暮らしているように感じられた。
 月日は流れ、10月以降わが国でも「マイナンバー」が送られてくる。国民一人ひとりに番号を振るいわゆる国民総背番号制度としては1997年の基礎年金番号の交付、2003年の住民基本台帳カードの交付が比較的記憶に新しい。マイナンバーは将来的にこの二者をも含む包括的なものになる。個人だけでなく法人にも付番されるので、お金の流れのガラス張り度はこれまでよりも格段に増すことになるだろう。住基カードは国民の5%にしか普及しなかったが、果たして前者の轍を踏まず、うまくいくだろうか。
 別れ際、書き終えた書類を手に去る彼女に「うまくいくといいね」と言った。「そうね」と笑った彼女はとてもうれしそうだった。あれから10年以上たったが、口座から赤十字への寄付金が引き落とされた形跡は未だない。