オヤジの喜怒哀愁

2015年10月25日号

完璧な日

5625

 知人とコーヒーを飲みながら話していた。彼は自分よりひとまわり以上も若い。
 「いつでしたっけ、天気のいい日がありましたよね」という。
 このごろは昨日の昼飯がなんだったか、うまく思い出せないようなときもあるので、そういえばそんな日があったかなぁ、とはじめはピンとこなかったのだが、少ししてから記憶が徐々によみがえってきた。ああ、たしかにあった、あれはいつだったか。
 その日は朝から風も穏やかで空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。海の向こうには富士山が見えた。俗にいう「ピーカン」というやつで、なにか撮影するならこういう日にまとめて撮っておきたいと思ったのを思い出した。春か秋にときに現れる年に何回とない、完璧な日であった。
 「あんまり天気がいいので嫁に連絡したんですよ」と彼はいう。反射的に写真を撮ってメールで送ったのだなと思った。ところが、さにあらず、電話をしたというのである。
 「電話?」
 「そう、電話。電話していまどこにいるって聞いたら、事務所で仕事してるっていうから、ちょっと外に出て、といったんです」
 仕事中に電話してきて席を外せというのはただごとではない。なに、なんなの、という疑問符で頭をいっぱいにしながら彼女は席を立ち、外に出たことだろう。彼女が外に出たことを確認したところで、電話口で彼は、どうだ、空がきれいだろ、といった。
 同僚たちはただごとではない気配を察して、席に戻った彼女に何かあったのかと心配そうにたずねた。彼女がありのままを話すとその場が一気に和んで、同僚もその日の天気をネタにして彼氏から送られてきた写メを披露して、男ってバカよね、ということで盛り上がり、職場に笑いを提供したそうだ。この話には一本とられた。若いころはそんなことをしたような気もするけれど、最近、自分は妻を大事にしているだろうか。
 家に帰って晩飯を食べながら妻にこの話をした。俺もたまには電話しようかというと、そんなことしたらまたなにが起こったのか、子どもが警察のお世話になったのか、停学になったのかとびっくりして心臓が止まるから頼むからよしてくれといわれた。
 「それに、その日のことは私も覚えているわ。外仕事のあなたはきっとこのきれいな空をみていると思ったもの」
 きょうのオチはのろけ話。