オヤジの喜怒哀愁

2015年12月10日号

偉大な記録

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 何年か前に、老人のグループホームで働いた時のことである。そこは小さな施設で、10人ほどのお年寄りがステイし、5、6人が通所のデイサービスを利用していた。自力でできるうちはなるべくなんでも自力でしてもらうというのが施設の方針で、なかでもトイレ介助をとても重視していた。おむつをしてしまえば、たとえ失禁しても衣服や寝具は汚れずにすむのだが、そうすると老人の痴呆症は目に見えて進行するという。
 とはいえ、自分でトイレにいきたいという意思表示のできる人は少数で、ころあいを見計らってこちらから声をかけてトイレに連れていかなければならない。車いすを利用している人もいるし、立つのもやっとという老人をトイレまで案内し、用を足してもらうのはなかなか大変なことであった。トイレにいって帰ってくるだけで20分も30分もかかることもある。
 昼間はそれでも人手があるし、基本的に居間で生活している人が多いのでまだいいのだが、問題は夜である。夜勤は1人体制で、夜中に何度も10人からの人をトイレに連れていかなければならない。1人1度ではない。夜の間に同じ人を2度、3度と起こし、トイレに連れていく。夜になると人が変わったようになる人もいるし、起きているならまだしも寝ている人を起こしてトイレに連れて行くのはいっそう大変なことだった。
 寝ているところを起こされるのは誰だって嫌なものである。起こしてもなかなか起きてくれない。少ししてからまた起こしにいくとすでに後の祭りということも何度もあった。そうすると濡れた衣服と寝具を取り替えなければならない。これがまたひと苦労でなかなかいうことを聞いてくれない。こちらも疲れ果て、仕方なくそのままにしておいたら寒い朝、濡れた寝具が体を冷やして熱を出させてしまったこともある。なにもそうまでして起こさずとも、おむつをしてもらってぐっすり休んでいただいたほうが本人も楽なのではないかと考えたこともあった。
 小さな詰所にはシフト表を始めいろいろな表が貼ってあり、そのなかに「シーツ交換表」というのがあった。いつ、どの利用者のシーツを交換したかを記入するものだ。夜勤時間帯を見るとさすがに皆苦労していて、シーツ交換の記録が残っている。が、何日かに一度、夜間シーツ交換ゼロの日がある。シフト表をみると同じ人が夜勤に入っている。これは素晴らしい記録である。1枚のシーツ交換表からその人をみる目が変わったことを覚えている。