オヤジの喜怒哀愁

2016年1月1日号

虹をくぐる

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 朝、車で娘を学校に送っていく時だった。天気予報で傘マークはついていなかったのに朝になって急に雨が降り出した。雲間からは太陽の光がのぞく天気雨である。駐車場から海沿いの道に出て空が開けると、後ろに乗っていた娘が「うわっ、虹だ、すごーい」と叫んだ。
 思わず車を止めて久しぶりの虹に見とれてしまった。虹はくっきりときれいな弧を描いている。北側は海から出て南側は半島の山の端に消えている。田舎は空が広いせいか、都会よりも虹をよくみるように思うが、これだけきれいなアーチを描いているのをみるのはまれである。
 しかもダブルだ。くっきりと1本みえるその外側に少し薄ぼんやりともう1本みえる。「2次の虹」あるいは「副虹」と呼ばれる虹である。雨が降ったり止んだりしたせいで虹は、7時半頃から8時過ぎまで断続的に30分以上も西の空にかかっていた。これだけ長い時間、虹を観測できるのも珍しい。
 そういえば、東京から地方に移住する前に、家族全員で何度か下見に訪れた際、砂浜できれいな虹を見たのを思い出した。まだ、移住しようかどうしようか迷っていたのだが、海で砂とたわむれる子供たちときれいな虹を見て、この吉兆に賭けてもいいのではないかという気がした。
 車の後ろに乗っている娘はそのときまだ幼稚園生だった。いまはもう中学生だ。その娘が虹をみながら「あの虹がどこから出てるのかわかるのかなあ」という。どこから出てるも何もあそこに出ているではないかというと、そうじゃなくてあの端っこ、という。
 虹のメカニズムをうまく説明できるほどよく知らない。しかし、虹は太陽の光が雨粒に反射してあそこにかかっているようにみえるだけで、いまから急いで船を漕ぎ出して虹の端っこまでいっても、そこに巨大な7色の光の柱が海から突き出ているわけじゃない、学校でプリズムとか習っただろ、というと少し間があって「フーン、そんなの知ってるよ」とそっけない返事が返ってきた。
 寝しなに家人に朝、虹をみた話をした。そして、中学生にしては物を知らなすぎるのではなかろうかというと、「わたしはきょうあの虹をくぐった。だからきっといいことがあるに違いない」といい張る。この親にしてこの子あり、である。