連載

2016年5月10日号

中小企業、IT活用で収益に差

社内態勢の改革など鍵

 4月22日に閣議決定した2016年版中小企業白書は、中小・小規模事業者の「稼ぐ力強化」に焦点を当てたものとなった。稼げる中小企業の取組みに関し、白書が重視した一つは「IT投資」だった。
 生産性の高い中小企業を分析すると、特徴として「設備投資やIT投資等に積極的である」ことが浮かんだと今年の中小白書はいう。白書は「稼げる中小企業」の際立つ取組みとして「海外展開」、「リスクマネジメント」とともに、IT投資を掲げ、IT導入に伴う業務改革なども含め、複眼的にその効果を考察した。

 

■進まないIT投資
 白書はまず、IT投資を行っている中小企業の売上高や売上高経常利益率が、行っていない企業と比べ高い水準にあることを各種調査結果から明らかにした。ホームページの活用、フェイスブックやツイッターなどソーシャルメディアサービスの利用、あるいは電子商取引の取組みが生む効果について、「営業力・販売力の強化」、「売上の拡大」、「顧客満足度の向上・新市場開拓」で顕在化している旨を述べた。
 その一方、IT利用に遅れがある現実も指摘した。象徴する例として、いまだにパソコンを使わず、手作業で記帳している中小企業が全体の約2割、パソコンを使って記帳する企業においてもその3割が会計ソフトを利用しておらず、「記帳ミスや時間のロス、発生するコストが企業の生産性、収益力を押し下げている」と推察した。
 他方、IT投資を重要とみなさない中小企業は全体の約38%を占め、白書は「まだ約4割もいる」と表現。またIT投資を重要と考えつつ投資に踏み切れない企業も多く、理由は「ITを導入できる人材がいない」、「導入効果が分からない、評価できない」、「コストが負担できない」の順に高いとし、対応強化を呼びかけた。

 

■高収益化への道
 IT投資を行っている企業においても、効果の程度で差がある。白書は「特に攻めのIT投資の効果については差がでている」と捉えた。業務支援系システムを導入した中小企業のうち、高収益企業は「営業力・販売力の強化」などで効果をあげたと評価する企業の割合が高く、低収益企業の評価を大きく上回っていた。

 効果の差は、企業内部の取組みから生まれているようだ。高収益企業では、IT導入の前後で業務プロセスや社内ルールの見直し、業務改善などに努め、これに伴う社員教育・研修にも取り組むなどして、IT導入効果を確実に広げていた。

 

■全社的な取組みを
 IT投資の成果例も数多く掲載した。石川県で温泉旅館を経営するY社は、ホームページのアクセスログを解析してニーズにあった商品企画を打ち出す一方、予約・フロント・会計を連結するクラウド型システムを使って合理化・省力化を実施、同時に顧客属性や販売データを把握し、顧客属性にあった提案で事業を伸ばした。この会社の場合、IT化への傾倒は従業員の反発を買うことにもなったが、従業員への指導・教育に力を入れることで、失いかけていたモチベーションを回復したという。
 精密板金加工メーカーK社は、受注から出荷までの伝票を管理するのみだった受注管理ソフトを生産進捗管理システムへと自社改良する一方、WEBカメラ90台ですべての作業工程を見える化して記録、その画像データを生産進捗管理システムのデータとリンクさせ、業務プロセスを改善させた。従業員の思いを理解し、それを経営陣が共有しながらシステム改革を重ねて効果を導いた。
 このように、成功事例の多くが、IT導入に伴う社内態勢の改革や、従業員の理解と共感を引き出して、収益向上をはかっていた。