オヤジの喜怒哀愁

2016年6月10日号

八重洲ブックセンター

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 インターネット市場の隆盛で厳しさを増す出版市場… そんなニュースがまた飛び込んできた。東京の大手書店、八重洲ブックセンターの株式の49%を出版取次大手トーハンが取得するという。
 出版界大手同士の提携とはいえ、書店と取次では業態はかなり異なる。説明するまでもないが書店は出版社が作った本や雑誌を売るのが商売だ。これに対し取次は流通業で、いわば書籍の問屋が本業である。
 本が売れないのだから書店も取次も経営が厳しいのは決まっている。ことに昔に比べると街にある書店の数は減っている。八重洲ブックセンターは東京駅八重洲口から至近の一等地にある。駅の待ち時間を利用して立ち寄る人も多い。しかし、そんな立地条件の良い大手書店でも本を売るのがなかなか難しい時代になった。
 取次も出版不況の影響は大きく受けるが、取次手数料を取って書籍を流通させるのが本業だから書店が抱えるリスクに比べればそれは小さいと言えるだろう。
 筆者が東京で出版社に勤務していた時代、取次に対してあまり良い印象を持っていない。大手出版社の出版物は黙っていても取次を通って全国の書店に配本されるようなところがあるのだけれど、大手以外のそれはなかなか取次いでくれないのである。取り次いでくれる場合でも取次料が高く設定される。おたくの場合は35%だ、などと足元を見る。定価2000円の本で700円も取次に持っていかれては、お金をかけて本を作ってたとえそれが売れたとしても利益を出すのは大変だ。しかし、取り次いでくれなければ店頭に本は並ばず、通販で売るよりない。
 そんなとき、八重洲ブックセンターに本を持ち込むと取次を通さずに店に置いてくれた。買い取ってくれることはなかなかなかったが、直接委託ということで店頭に並べてくれるのである。書店は多かれ少なかれ直接委託の枠を持っているが、八重洲ブックセンターはそんな中でも大手出版社以外の出版物を積極的に取り扱ってくれたという良い印象がある。ビジネス優先の取次に対し、刷り部数は少なくても手間暇かけたニッチものや地方の出版物に理解があった。本への愛情、書店としての気概のようなものを感じたものだ。
 もちろん今回の提携は、大手書店が取次大手の軍門に降ることを意味するわけではないのだろう。だが、大手出版とは一線を画すユニークな書籍が店頭に並ぶ機会が一段と失われる危惧があり、それが残念でたまらないのである。