オヤジの喜怒哀愁

2016年7月10日号

ビートルズの末裔たち

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 イギリスEU離脱の衝撃波も地球をひと回り、ふた回りしてようやく治まってきたように見える。だが、EUからイギリスが抜けるのだからタダでは済まないのだろう。為替や株の国際金融市場では中長期の不安定要因として重くのしかかっており、先行き不安は拭えないという気がする。
 人、物、金の垣根を取っ払って経済的にも軍事的にも超大国アメリカに対抗でき得る新たな巨大国家として誕生したEU。いかに広いマーケットを持つか、いかに大きな市場を抑えるかという現代における市場至上主義の考え方がEU誕生を後押ししたと言えるだろう。21世紀で活躍が約束されているというBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は、生産効率が優れているというよりもむしろデカい市場を持っている国々なのである。EUという巨大国家の誕生はEUという巨大市場の誕生を同時に意味していたはずだ。
 市場至上主義と並んでEU誕生を生んだもうひとつの思想は超国家主義だと思う。2度の世界大戦を経験した近代はいわば国家主義の激突だった。そして、国家を絶対なものとして強力な近代国家を築き上げ国際的に優位に立ったのはヨーロッパだったが、その近代ヨーロッパ文明の限界に気づき、国家は絶対なものではなくむしろ今後の世界、地球には国家を超えた人類の共同体が必要なのだという理想を掲げたのもヨーロッパ自身だった。
 べつに宇宙人が地球を攻めに来たわけではない。だが、近代文明は地球を狭くした。たとえば環境問題でよく言われる宇宙船地球号という地球は運命共同体であるという深い認識である。あるいは核がいつ全人類を滅ぼすかわからないという危機感の共有である。
 言い換えると、つまりEUは市場至上主義という現実路線と超国家主義という崇高な理想のふたつを同時に試みる21世紀の巨大な実験であり、国家至上主義の近代を超えるポストモダンへの大きな一歩として画期的であり歴史的に重要な意味を持っていたのである。

 イギリスはEUに対して当初から冷静、慎重だった。イギリス駐日大使は、イギリスは日本と同じ島国根性の国なのだ、とEU離脱を解説した。たしかにEUは移民問題、ユーロ危機などでかえってイギリスに混乱を招いた。しかし、市場至上主義の失敗で超国家共同体という理想まで失ってほしくない。国民投票で残留を支持したイギリスの多くの若者たち、ビートルズの末裔たちはそう言っているように思えてならない。

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