連載

2016年7月10日号

人工知能、製造革命の主役に

分析から自律制御、協働へ

 人工知能(AI)が遂に、製造現場に実装される時代がやってきた。
 6月22日に都内で開催された第30回型技術者会議の特別講演。東京大学発のAIベンチャー、プリファードネットワークス(PFN)の西川徹社長は「AIの主戦場は、膨大なデータ量が生み出される製造現場にこそある」と聴衆に熱く語りかけた。
 「IoTの普及で機械からデータを集めて知見を見出す生産改善が一般化してきたが、私たちはさらに上を行く、超インテリジェントな製造システムを目指す。AIにデータを与えて異常検知などの分析に活用するのみならず、機械やロボット、アクチュエーターなどの制御にAIを使う。3~5年後にはロボット同士が協調して最適な製造工程を自ら生みだすようになり、中長期的には戦略判断にまでAIが活用されるようになるだろう」
 PFNが開発を進めるのは、人間の脳神経回路を模したAIの最先端技術・ディープラーニング(深層学習)。今年3月、囲碁の世界王者に圧勝したAI・アルファ碁にはグーグルのディープラーニングが活用されており、世界中にその威力を知らしめた。
 西川社長によると「ディープラーニングは認識精度や直感的判断に優れる。これまでの機械学習の場合は人間がルールを設定して学習させる必要があったが、ディープラーニングの場合、生のデータを与えるだけで行動ロジックを発見できる」という。
 例えばPFNとファナックとの協業の中では、多軸ロボットによるばら積みワークピッキング作業の学習にディープラーニングを用い、ティーチングレスかつ8時間・5000パターンの自律学習で、熟練者が数日かかるティーチング時と同等のピッキング精度(約90%)を実現。業界関係者を大いに驚かせた。

 

■機械に近い「エッジ」にAI
 さらに、PFNが自動運転などでトヨタとの協業を進めるディープラーニングの一種「分散協調型の深層強化学習」は、個々の車が学習した結果を他の車と瞬時に共有できるアルゴリズムを持ち、突発的な障害物にもぶつからない運転(デモ)を可能にする。
 この分散協調型深層強化学習を製造現場に実装するのが、西川社長が目指す次のステップ。「学習成果をリアルタイムに共有しあえば、チームを組んだロボットや機械が最適な製造工程を自ら生みだし、1台が壊れた場合も協調して助け合うことでライン停止を未然に防げる」という。
 また、従来のクラウドコンピューティングでは製造現場から上がる全データを吸い上げきれないが、PFNでは機械に近いエッジの部分で大部分のデータを処理し、重要な部分のみクラウドに吸い上げる「エッジヘビーコンピューティング」により学習データ量の最大化とレイテンシー(遅延)の最小化を可能にするという。
 そのエッジヘビーコンピューティングを製造現場に実装するプラットフォームこそ、ファナック、シスコシステムズ、ロックウェルオートメーションとPFNが今年3月に発表した「フィールドシステム」だ。

 フィールドシステムでは、機械に近いエッジや中間のネットワーク機器に対してディープラーニングを活用したアプリケーションを提供するのみならず、外部企業に技術仕様を公開することで高度な分析技術を搭載した他社のアプリも搭載できるようにした。これにより、他社の機械やセンサーを含めた各デバイスを「賢く」しつつ、工場全体の稼働状況をリアルタイムに一元管理し、ライン全体の協調と改善が可能になるわけだ。
 西川社長の講演後、会場の熱気を映すかごとく質問が次々と上がった。CPUの処理能力や電力消費の問題、ブラックボックス化されたAIの制御技術への信頼性、個体別環境差への対応など、各課題の解決が進みつつあることが分かる中、「NCデータを作成しないで削れる工作機械もできるのでは…」など、夢と期待も会場中に広がっていた。