連載

2016年8月10日号

不具合伝える「かしこい金型」

日本の金型支える、新たな武器に

 工場の生産性をいかに高められるか―この大命題に対し、金型メーカー側はどんなソリューションを提案できるのか。今までなら、ただ、低価格・短納期・高品質の金型を供給することしかなかったかもしれない。そこに風穴を開け、日本の金型づくりに新たな国際競争力をもたせようとしているのが、今年1月に発足した「かしこい金型研究会」だ。会員には事務局を務めるクライムエヌシーデー(神奈川県相模原市、CAD/CAMデータ製作)をはじめ、金型メーカー、日本ユニシス・エクセリューションズ、慶應義塾大学など8社・大学が名を連ねる。
 同研究会の会長を務めるクライムエヌシーデーの高橋百利会長は、「今までの金型は単なる鉄の塊。プレス機などの操作指令や周辺の自動化設備の検出機能の助力を得て、かろうじて作動し、成型品を排出するにすぎない」と断じる。
 一方、同研究会が開発を進める「かしこい金型」は、その名の通り、物言わぬ金型に「賢さ」をもたせようとしているのが特徴だ。定義としては表の通り。高橋会長はプレス型を想定した研究事例案として、「ピアスポンチが折れたり、材料が2枚入っていれば金型自身が検知し、信号を出して成形機を止める。そうすれば不要な金型破損や不良発生を防ぐことができるだろう。また、スクラップ流れ不良を効率よく検知できればチョコ停を防止し、プレスラインの生産性を大きく高めることができる」と説明する。現時点での詳しい研究内容については非公開だが、スクラップ処理など全7テーマで研究活動が進展中だ。

■生産履歴を設計や管理に活用
 集めた金型データは、ユーザー側のIoT活動にも活かせる。金型の生産履歴やメンテ履歴をサーバに集約して金型の管理に活かすのはもちろん、不具合のデータを設計側にフィードバックすれば、設計変更に活かすなどの生産改善も進みやすくなる。これらIoTソリューションについては、日本ユニシス・エクセリューションズ主導で開発を進めているところだという。
 こうした研究会の先進的な活動は発足当初から業界の注目を集めてきたが、普及にはハードルがまだありそうだ。高橋会長は「自動車メーカーをはじめ大手の技術部門の反応は非常に良いが、大手ユーザーが世界中の生産拠点に保有する全プレス機、全金型に導入しようとすると膨大な投資になる。ユーザー側に、企業全体として金型の知能化・IoT化を進めようという意思決定が必要だ」と話す。
 ただ、自動車・同部品メーカーなど大手ユーザーでは海外進出を加速しているものの海外では特に生産管理、金型保全に精通した熟練技術者が不足する。近い将来、生産性を高めるために金型の知能化・IoT化ソリューションがより必要になっていく可能性は高い。
 「将来を見据えて、今は愚直と言われても信念をもって開発にまい進していくのみ。普及に壁があるからと言って開発を諦めていては、日本の金型産業の未来は拓けない。今まさに、新興国の金型技術の追い上げは非常に激しく、型費は下がる一方だ。品質と経験値のみを糧にできた時代は、もう終焉を迎えようとしている」(高橋会長)。
 研究会では今後、プレス金型のみならず樹脂やダイカストなどでの展開も検討している。高橋会長は「情報を集めるための勉強会ではなく、身を切ってでも開発を実践する覚悟を持った人が集まった『研究会』。一つひとつの課題を乗り越え、日本の金型づくりに新たな付加価値を創出したい」と言う。