連載

2016年10月10日号

完全自動運転車の実現へ

技術のブレークスルーに期待

 モノづくりの要となる自動車産業。そこで今、最も研究開発が盛り上がっているのは自動運転技術だ。産業技術総合研究所・フィールドロボティクス技術研究グループ長の加藤晋氏は、「自動運転は究極のITS(高度道路交通システム)。交通事故の96%は交通法規違反が原因だが、機械はそもそも違反しない。自動運転の進化に、年間4117人(平成27年)にも及ぶ交通事故死者の削減への期待がかかっている」という。
 政府ではITSの進化により2020年に交通事故死者数を2500人以下とすることを目標に掲げており、自動運転のレベルを4段階に設定して実現期待時期を設定した。ドライバーが加速・操舵・制御の全てに関与しない「完全自動走行システム」は最高ランクの「レベル4」だが、実現へのハードルはかなり高いとみられている。
 豪雪時、真夜中、逆光、渋滞、ドライバー同士の協調が必要な場面…どんな道路環境下にあっても瞬時にシステムが状況を検知して判断・操舵するのは難しく、法制度面でも運転者がいない完全自動運転車の実用化はまだ国際的に認められていないからだ。
 この困難なレベル4の完全自動運転車をいち早く、2020年の東京オリンピックまでに無人タクシーとして実用化しようとしているのがロボット専業ベンチャーのZMP(谷口恒社長)。ZMPは2015年6月、ディー・エヌ・エー(DeNA)と合弁企業「ロボットタクシー」を設立した。ディー・エヌ・エーが配車などのインターネットサービスを担い、ZMPが自動運転車の開発を行っている。

■多彩なセンサで物体検知
 ZMPはこれまで自動運転車両の実験サービス等を自動車メーカーやセンサーメーカー向けに提供してきた実績があり、認知・判断・操作に関わる総合的な技術力を持つ。
 そのテスト車両には多彩なセンサが搭載される。前後合計で5個搭載したドイツ製の2次元レーザセンサでほぼ全周囲の動く物体を検知し、単眼カメラとディープラーニング技術により白線や人を検出。夜間でも使用できる高感度(0.005ルクス)のソニー製CMOSセンサを採用したステレオビジョンは人間の眼のように物体との距離や物体の高さを測定でき、「10センチ程度の縁石でも検出できる」(ZMPの西村営業部長)。
 他にも3DLider、慣性センサなどがあり、これら全てのカメラやセンサから得られた情報を統合することで、物体を認識する。さらに基準局との位置関係から誤差1〜10センチレベルで自車の位置を検知でき、車載コンピュータが行動計画・経路作成と制御を行うという仕組みになっている。
 ZMPでは仙台市内の特区ですでにレベル4の実験走行もスタートしたが、公道でのレベル4実現はまだ難しいようだ。西村営業部長は「実世界は非常に複雑で今は知見を集めている段階。しかし、2018年頃には技術のブレークスルーが起こり、課題解決に向かうだろう」と展望を話した。
 その課題解決に一役買う期待が、MEMSの進化にもある。東京大学、電気通信大学、デンソー、(一財)マイクロマシンセンターの開発チームでは、MEMSを駆使した革新認識システムの研究開発を急ぐ。例えば開発中の分光イメージャは、1ミクロン以下のナノアンテナが赤外光の波長を検出して人体と水の違いを見極められるデバイスで、大粒の雪や雨の中でも人の存在を検知するのに役立つものだ。こうしたMEMSの進化は無骨なカメラやセンサが満載された今の自動運転車の見た目も変える期待がある。さらに、自動運転車の普及に伴いセンサの小型化・低価格化が進めば製造現場にも取り入れやすく、データが駆動する次世代のモノづくりの普及を支えていくことだろう。