オヤジの喜怒哀愁

2016年11月10日号

マッチ

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 株式市場は相場の世界のことゆえ、どこかくだけたところがあって銘柄を口にするとき、つまり会社名を言うときにニックネームで呼ぶことがある。業界用語である。あだ名のつけ方にはいろいろなパターンがある。
 そのうちの一つにテツ、オルゴール、ナマリ、バッテリー、バネ、アーム、ロープというふうに会社が生産している代表的な商品で呼ぶというパターンがある。時代の移り変わりが激しい世の中なので、すでに主力商品を他に譲っているケースもあるけれど、相場で古くから親しまれてきた愛称で、知っている人には今でも通じる。
 株式市場でマッチと呼ばれている兼松日産農林がマッチ生産から撤退するというニュースを聞いてそんなことを思い出した。兼松と合併する前の日産農林の主力製品がマッチだったことからこう呼ばれているのである。
 使い捨てライターや自動点火コンロの登場を機にすでにマッチ需要は低迷の一途をたどっており、現在は生産設備は1ラインを残すのみで関連従業員は18人というから主力製品の座からはとっくに降りているわけだが、それでも未だ国内最大手の座は譲っておらず、同社のマッチ撤退はそれなりのニュースとして報じられた。それを聞く者はとうとうその日が来たのか、時代は移り変わるものだなあと感慨に浸ることとなる。
 子どもにマッチを擦らせると手前の方に引いてすぐにマッチを折ってしまう。そうではなく空手チョップのように向こう側に擦るのだと言ってもなかなかうまく火が点かない。空手チョップという言葉自体知らないのかもしれない。マッチの需要はマッチ売りの少女のマッチのように風前の灯で刻一刻と残り少なくなっている。だが、それでもここはマッチでなければという場面はある。
 その一つが蚊取り線香を点けるときである。蚊取り線香は案外火が点きにくいもので点火時間を要する。毎日点けていると使い捨てライターのガスはすぐになくなってしまう。マッチを擦り、軸を傾けたり平行にしたりしながらの根元の方まで燃やすとちょうどいい。それと、たまに燻らすパイプである。これも点火時間が必要だし、第一ガスライターでパイプに火を点けるのは無粋である。
 電子マット式の登場で蚊取り線香の需要は減っているし、喫煙人口も減少しており、蚊取り線香とパイプのためにマッチを作り続けてくださいと兼松日産にお願いするのも酷な話だが、マッチ愛好家としては寂しいニュースである。