オヤジの喜怒哀愁

2017年1月25日号

井戸の水

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 暮れに引越しをした 。数えてみると人生7回目の引越しである。住む環境が変わると暮らしぶりもそれなりに変化するものだ。
 新居には井戸があって電動ポンプで水を汲み上げ、生活用水として使えるようになっている。上水も来ているのだが、井戸水が身近にある暮らしというのは初めてのことである。
 生まれ育った家の隣の家には井戸があった。手動式のいわゆるガチャポンと呼ばれるポンプがあって、子どものころは用もないのに水を出して遊んだ記憶がある。しかし、都会の井戸は公害が言われる時代になるとどんな異物が混入するかわからないということで急速に使われなくなった。今はまた災害時の水源として見直されているとはいえ、生活用水として使っているところはほとんどないのではなかろうか。しかし、地方には現役の井戸がまだたくさんあるようだ。
 台所に来ている井戸水と上水とを透明なガラスのコップに汲んで比べてみると、井戸水はわずかに濁っている。夜中に喉が渇いて井戸水を飲んだら翌日下痢をした。果たしてこの水は飲んで大丈夫なのだろうか。
 近所に住む人に聞くと沸かして飲めば大丈夫だという。コーヒーは井戸水に限るという人もいる。隣家の初老の男性は40年前にここに越してきたときは上水が来ておらず井戸水しかなかった、この一画の井戸水はきれいで、浄水器はつけているけど生水を飲んで平気と言う。多くの井戸は水質検査をすると飲み水としては不適という検査結果が出るとも聞く。自分がここの生水を飲んで下痢をしなくなる日がいつか来るのだろうか。
 井戸水は風呂場にも来ている。浴槽に溜まった湯を見るとやはりわずかに濁っている。だが、この湯には何か特別な魅力がある。体が温まる。井戸の水温が高いわけではないので温泉とは言えないが、鉱泉のはしくれと称してもいいような湯なのだ。マグネシウムを多く含んでいるのが濁りの原因だと解説する人もいる。家で温泉気分を味わえるとは、なんと贅沢なことよ。
 と、思っていたら、先日雨が降った後に水が濁った。それになんとなく泥臭い。雨水が周囲の泥を井戸へ運んでくるように思われた。井戸とはそういうものなのか、あるいはここの井戸が浅いのか。雨の多い夏場になったら井戸水はどうなるのだろうという不安もよぎる。と、井戸水との暮らしぶりを井戸水のインスタントコーヒーを飲みながら原稿に書いている。