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連載 扉の先〜自動化時代の挑戦者たち

扉の先43/国産初の手術ロボット誕生

【メディカロイド】打倒「ダ・ヴィンチ」の鍵はロボ執刀医育成

川崎重工業と医療検査機器メーカー大手のシスメックスが共同出資するメディカロイドは、昨年11月中旬、国産初となる手術ロボット「hinotori(ヒノトリ)サージカルロボットシステム」を報道陣に公開した。

メディカロイドの手術用ロボット「hinotori」。「ダ・ヴィンチ」に比べコンパクトで操縦性に優れるという。

「ロボット名は医師免許を持っていた漫画家・手塚治虫先生の代表的な作品『火の鳥』から頂いた。命と向き合う医療従事者のお役に立ちたい」。こう語ったのはメディカロイド社の浅野薫社長。シスメックス時代から川崎重工・橋本康彦社長と親交があり、「いつかは国産で医療ロボットを」との想いから2015年にメディカロイドを立ち上げ、5年の開発期間を経て今回の上市に至った。

手術支援ロボットは従来の手術に比べて患者の負担を軽減できるのが大きな特徴で、日本でも外科手術への導入が進んでいる。日本能率協会(JMA)総合研究所によると、2024年には約270億円市場に拡大すると予測されている。

現在、医療ロボットの代名詞とも言えるのが米インテュイティブ・サージカル社の「ダ・ヴィンチ」。世界最大シェアを誇り、すでに600万人以上を執刀している。累計販売台数は5000台に及び、日本国内でも約300台が稼動している。その「ダ・ヴィンチ」における特許の大半が2019年を境に期限切れを迎える。それにあたり医療ロボット分野への参入が相次いでいるのだ。

ジェネリック医薬品同様、後発組に期待されるのは高額なコストのダウンだ。「ダ・ヴィンチ」本体の価格は約25千万円、年間維持費は2000万円を軽く超える。昨年8月に行われた参入発表の際に、浅野社長は「ダ・ヴィンチよりもコストメリットを出す」としていたが、11月の発表では「販売スキームに応じ、適正価格で提供したい」と価格に対しての明言は避けるにとどまった。

PCR検査ロボットも市場投入
市場には強力な対抗馬もいる。海外勢では2019年に日本でも医療承認を得た米・トランスエンテリックス社や、グーグルとジョンソン&ジョンソンが出資する米・ヴァーブ・サージカル社がこの分野に参入している。

また国内からも東京工業大学と東京医科歯科大学が主体となる大学発ベンチャーのリバーフィールド社、国立がん研究センター発のベンチャー、エー・トラクション社が名乗りを挙げ、海外勢よりも低価格かつコンパクトなロボット開発を目指している。

だが、ロボットの価格以上に問題なのが、ロボット手術を行う執刀医が圧倒的に少ないことだ。日本ロボット外科学会が研修の受講やロボット手術経験に応じた資格制度を設けているため、担当できる執刀医は国内に2000人弱しかいない。それゆえロボット手術人材の育成も、ロボットメーカーにとっては重要となる。

メディカロイドでは今後、神戸大学にロボット手術のトレーニングセンターを開設し「トレーニングセンターでは、メディカロイドが学会の承認を得た上で医師に技能習得の認証を与えるようにしていきたい」(浅野社長)と、人材育成を含めた導入バックアップを図っていく構えだ。

また、コロナ禍におけるPCR検査ロボットシステムの提供にも意欲を見せる。同システムはデュアロ2など8台のロボットで構成され、トレーラーに積載できるようパッケージ化。デモ機では人手を介さずに16時間で2000検体の検査を可能にしている。

すでに羽田、成田、関西と3つの国際空港への導入に向けて調整が進んでおり、「医療現場からも大きな期待がかかっている」という。

2021125日号掲載)