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連載 扉の先〜自動化時代の挑戦者たち

扉の先45/実物大「動くガンダム」横浜で始動

【ガンダムグローバルチャレンジ】9社の先端技術で巨大ロボット実現

1979年の初放映以来、ロボットアニメの金字塔ともなった「機動戦士ガンダム」。その実物大立像がお台場に登場したのは2009年。潮風公園内における展示は約2ヶ月で約415万人を動員する人気を博した。

実物大ガンダムが動く姿は壮観だ(©創通・サンライズ)

この光景を見た当時のプロジェクトリーダーであった、宮河恭夫氏(現バンダイナムコエンターテインメント社長)の何気ないひとこと「このガンダムを動かした方がいいのでは」がきっかけで立ち上がったのが「ガンダムグローバルチャレンジ(GGC)」だ。

プロジェクトには業界の垣根を超えたさまざまなスペシャリストが参画。アニメの原作・総監督富野由悠季氏を中心とした5名のリーダーと3名のディレクターが、「動く実物大ガンダム」の実現に挑んだ。

単に動かすだけではなく、「ガンダムらしい動きを再現する」ことを目指し、手首とハンド部分を除いた関節数は24カ所(同様の人型ロボット・ソフトバンク「Pepper」は20カ所)に及んだ。各関節の電動アクチュエータは、モータや制御装置は安川電機が、減速機はナブテスコが担当。ハンド部分はロボットの特注製作を行うココロが手がけた。これらをつかさどる制御システム、モーションプログラムはロボット向けOSV-sido(ブシドー)」の企画・開発・コンサルを行うアスラテックが担当した。

外装はディスプレイデザイン大手・乃村工藝社が担当。3dプリンタで30分の1のモデルを作成し形状確認を行い、さらに10分の1のモデルで細部の意匠チェックを行ったのち、実物大パーツを製作。大きく可動する部位である腕と脚には軽量なCFRPを、頭部とボディには形状の自由度が高いGFRPを採用している。

全長18㍍、重さ25㌧のボディを安全に可動させるために、ロボット腰部を「ガンダムキャリア」と呼ばれる支持台車が支えている。こちらは住友重機械搬送システムが担当。電気配線工事は三笠製作所、技術試験は前田建設工業、機体が格納されるドック部分は川田工業が担当。計9社の最先端の技術が、巨大プロジェクトに反映された。

■将来は「動くザク」との競演も?

だが、前例のない巨大ロボットを作るうえで、製作は難航を極めた。勤務していた大手建機会社を辞め、GGCテクニカルディレクターを務めた石井啓範氏は「2週に1度の定例会議ではカバーしきれない部分も多々あり、各社が担当する分野の切り方を考え、調整するのが大変だった」という。

紆余曲折を経て、完成したガンダムは横浜の地で第一歩を踏み出した。「最大の可動型ヒューマノイドロボット」、「最大の可動型ガンダム」としてギネス認定もされたその動作は、想像以上に滑らかでスムースだ。「歩行時には足の裏まで見えたほうが格好良い」という吉崎航GGCシステムディレクターのこだわりが反映された、歩行デモンストレーションは迫力満点だ。

また、特筆すべきはプロジェクトそのものがオープンイノベーションを念頭において進められたことだ。現在も公開されている「GGCリサーチオープンシミュレータ」には、世界中の研究者が自由にロボット開発に参加できる体制の創出と、ロボティクス分野のさらなる発展を目指し、「リアルガンダム」の実現に繋げていく狙いがある。

オープニングセレモニーにおいて、富野総監督は「50周年はザクでやりたい」と語った。10年後、実物大のガンダムとザクが対峙する――そんな光景が見られるのかもしれない。