日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

連載 ジダイノベーター~未踏に挑むスタートアップ

ジダイノベーター Vol.1/AI民主化の旗手は大阪にあり

株式会社フツパー、中小製造業にはやい・やすい・巧いエッジAIを

AIという言葉がビジネスシーンでも頻繁に飛び交うようになった。しかし足元を顧みたとき、実際にAIを活用している企業はどれほどあるだろうか。導入費が障壁となり、ごく一部の企業が利用するに留まるのではないか。

フツパーが用いるエッジデバイス。この小型端末にAIが集約されている

大阪市に本社を置くフツパーは、そんな「AIの理想と現実」の差を埋めるべく奮闘するスタートアップだ。「AI=高価で中小は扱いにくい」という図式に疑問を感じた創業者の大西洋CEO2020年に設立。以来「はやい・やすい・巧いAI」をモットーに、中小企業へ初期費用を抑えられるサブスク方式でAIサービスを展開してきた。

扱うのは工場で用いられる検査・検品用の画像認識AI。自社開発のAIを手のひらサイズのエッジデバイスと呼ばれる小型端末に集約することで、従来のクラウド型AIと比べ処理速度を早め価格も低減している。このエッジAIに市販のカメラを組み合わせて高精度の外観検査システムを構築。認識したワークに不良があれば異常発報を行う仕組みだ。

特筆すべきはその価格。初年度は月額298000円、2年目以降は月額98000円でシステムを提供する。「検査員を1人削減できれば2年目以降投資回収できる価格で、AIとしては非常に安いと自負している」と、同社の萩原啓悟CMO。「安さを謳うAI企業も増えているが、実情はソフトだけを提供して環境構築をユーザーや商社に丸投げする場合が多い。その点我々はAIの構築・環境構築・現場実装までワンストップで提供する。お客様先環境の実証実験も月額費の範囲で行うため、そうした観点でもユーザーファーストと言えるのでは」

AIへの再学習処理には特許出願済みの技術を活用。これはAIが判別が難しかった閾値前後のデータのみを抽出して再学習を行うもので、AI学習の工数を減らす固有技術だ。こうしたノウハウとエッジデバイスの活用で、他社の追随を許さない価格設定を実現。食品をはじめ幅広い製造業へと導入を広げている。

■モノづくり大国日本の再建目指し布石

設立2期目と若いフツパー。従業員はすでに35名を数えるなど勢いがあるが、現況に満足はしていない。「今後は1つの撮像環境で複数種のワークを扱う少量多品種の領域にも対応したいが、工数が課題。そこでデータ収集やAIモデル構築を支援するアプリケーションを開発しており、ハードウェアの調達・設置以外をユーザー自身で行える仕組みづくりを進めている」(萩原CMO)と、さらなる成長へ向けた布石も万全だ。

また現在手掛けるシステムは検査用途だが、ゆくゆくは検査を切り口にした製造工程全体の見直し提案も視野に入れる。「AIベンチャーは関西よりも圧倒的に首都圏の方が数が多い」と萩原CMO。「これは裏を返せば関西をはじめ地方にはAI支援が十分に届いていないということでもある。人手不足で最も課題感が強いのは地方の中小企業。我々はそこにAIで寄り添い、モノづくり大国日本の再建を本気で見据えて歩みを進める」