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けんかっ早いけど人が好き vol.1

愛しのコンサート

どこかに行きたい。

この一年、気がつくとこの言葉を呟いている。なにせ私は旅好きである。旅にもいろいろあるけれど私の場合は、道が好き。その道から見える景色が好きなのである。

北海道にある幸福駅跡。早く平和な世界にもどれますように

十代でバイクに乗り始めてからは、時間があれば日本各地を一人で走りまくっていた。地図をながめては通る道を選び、ただひたすら走る。よく、「〇〇に行ったことある?」と尋ねられると「うん」と答えているけれど、正確に答えるとすれば、「〇〇を通過した」である。きっと町の散策が好きな人にしてみたら、それは行ったことにならないと怒ることだろう。

道はいい。すごくいい。地図ではわからない景色が広がっている。一度通って反対側から走ってみると、また別の景色が見えてくるのも好きだ。ガイドブックでは知ることのない絶景に出会ったときは心の中で勝ったと叫ぶ。なにに勝ったのかよくわからないのだが、そのくらい達成感に包まれるのである。

今の仕事についてからは、新型車の試乗と称して北へ南へと走りにいく。同じ場所に向かうとしても、季節や天候、時刻が異なれば見える景色も違ってくる。そのたびに、今の仕事を選んだ自分をほめてあげたい。

ところがコロナだ。新型車の試乗は県境を越えないようにと編集部から釘をさされ、インタビュー取材も打ち合わせもすっかりリモートに切り替わった。取材現場が北海道や沖縄など自宅から遠い場所だと、もうそれだけでわくわくしていたのに、つらい。つらすぎる。

もうひとつ、私にはつらいことがある。それは、コロナのせいでコンサートが軒並み中止になっていることだ。コンサートにも種類があるけれど、私が愛してやまないコンサートは立ち見で大声を張り上げ、モッシュだダイブだサークルだと聴衆が体をぶつけあうロックコンサートである。好きなバンドが活動をとめていて、私のエネルギーはいったいどこで放出すればいいというのだ。

今、私はウォーキングにいそしんでいる。家のまわりで新たな道を散策し、ささやかな達成感を味わっているのだが、目的はそれだけではない。いつかコンサートが再開されたときに3時間、飛び跳ね続けるための体力維持である。そう、コロナなんかに楽しみを奪われたままで終わるわけにはいかないのである。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員