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けんかっ早いけど人が好き Vol.10

ダイヤのピアス

アクセサリーはほとんどしないのだが、高校生のときからピアスだけはしている。

ついているかどうか、わからないくらい小さなダイヤがついています

当時、英会話を教えてくれていたアメリカ人の女性がピアスの穴を開けると目がよくなると言い、本人はもちろん6歳になる彼女の娘さんにも開けていたからだ。今思えばかなり怪しい話だが、なんとなく流されて開けてみた。

今、つけているものは20年ほど使い続けている。面倒なので24時間365日つけっぱなし。もちろん、そんな使い方は推奨されていないのでかなりへたってきた。月に一度、髪を切りにいくときだけはずすのだが、はずしたピアスを見て買い替えようかとふと思う。そして、美容院からもどり洗面台の鏡を見ながら耳にはめていたときだ。

かちっ、ちゃりちゃりん。

えっ? 洗面台の排水口を見つめてかたまった。そこにピアスの姿はない。なにが起きているのか把握したあと、あわてて排水栓と一体になっているゴミ受けをそうっと持ち上げてみる。ここにひっかかってくれていれば……しかし、ない。排水口の奥を覗き込んでもつまんで取り出せそうなところにとどまっている様子もない。さあ、どうする?

どうするもこうするもない。救出だ。排水パイプをはずすのみである。洗面台の下の扉を開けタオルを敷いて、のの字になった排水パイプの分解を始めると中にあった排水がどっと漏れ出した。げーっ!  慌てて作業を中断し、空のペットボトルをカッターで切って漏れ出た水を受け止める。成功して喜んだのはいいけれど、いつものクセで受け止めた水を洗面台にじゃっと流し、外した排水パイプからふたたび出てきてぎゃーと叫ぶバカっぷりである。

それでもなんとか排水パイプをはずしてみたが、ピアスは見当たらない。なぜだ。もう暗黒の下水管に流れてしまったのか。半分涙目になりながら考える。いや、もしかして排水口に落ちていないとか? そう気づき洗面台の脇に並んでいる電動歯ブラシや歯磨きのチューブの間を見ると。

あった……。ちょっと待て。この臭い排水まみれの格闘劇はなんだったのだ。ここにあるならそうと言ってくれ(無理)。でも、あってよかった。買い替えようかなどと考えた私が悪かった。こうなったらもう、死ぬまで大切にしよう。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員