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けんかっ早いけど人が好き Vol.12

消防ファン

交通事故のときに現れる消防隊(救急隊を含む)はどんなときもヒーローに見える。世の中に消防ファン、消防マニアと呼ばれる人たちがいるが私もその一人だ。

夜間、緊急出場をする消防車両

無駄のない動き。だれかを守るための知識と技術。そして統制のとれたチームプレイ。曽田正人先生の漫画「め組の大吾」は何度読み返したかわからない。

私の仕事のいいところは好きな人に会えることだ。よって10年ほど前、私は消防の本を書くことにした。取材だ、現場入りだ! いや、これは職権乱用ではない。れっきとした仕事だ。子どもたちのためだ。仕方ないなあ、もう。

取材を受け入れてくれたのは東京タワーのそばにある東京消防庁芝消防署である。取材期間の後半になると緊急車両にも同乗させてもらえることになった。署内に響く出動指令と同時に車庫に向かい、隊員たちより先に乗り込むのである。私の座る席は後席中央なので私が乗り込まないとほかの隊員が乗れないのだ。

最初はよかった。新人隊員がいる消防車への同乗なので、簡単に彼らより先に乗ることができる。問題は救助隊である。東京消防庁特別救助隊。オレンジ色の隊服に身を包む精鋭部隊。彼らの動きは早い。出動指令を合図にすごい勢いで車庫に現れ、あっという間に出動していく。屋上や踊り場で訓練をしている彼らの脇で取材をしていると乗り遅れてしまうのだ。

どうすれば先に救助車両にたどり着けるのか。出した答えは、救助隊員よりもわずかでも車両に近い位置にいるということだ。出動指令を合図にヨーイドンで走り出し、彼らに追いかけられるように車両に乗り込む。まるで、チーターに捕食されないよう動く草食動物である。こうなると朝から夜中まで気が抜けない。訓練時以外も彼らの居場所を把握し、トイレも食事もままならない。取材も命がけである。でも、ものすごく充実して楽しかった。

取材中、彼らが後輩に伝えている言葉を教えてもらった。「大きな声で返事をする。人の話を最後まで聞く。同じことを二度と言われない。トイレ掃除をしっかりする。」

この言葉は今もなお私の心にもしっかりと刻まれ、ちょっと凹んだときに思い出しては、また上を向く元気をもらっている。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員