日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

連載

連載

けんかっ早いけど人が好き Vol.18

救命講習

東京消防庁の救命講習を受けてきた。正確には応急手当普及員の再講習である。普通救命講習、上級救命講習ときて応急手当普及員になると、だれかに教えることができるようになる。

AED(体外式除細動器)。駅やスーパーにもあります

救命技術と知識は大事だ。東京マラソンでは毎回、参加者が突然、意識をなくしてAEDなどで救命されるケースが出ている。もちろん日常生活でも役にたつ。不届きかもしれないが私は目の前をいく通行人に対して、倒れるなら私の前で倒れろと思うときがある。ほかの人よりも完璧な胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行う自信があるのだ。

私が最初に資格をとったのは高校三年生の夏休みである。高校で一週間にわたる赤十字の講習会が開催されたのだ。受験勉強のやる気がゼロの私はほいほい参加した。

胸骨圧迫、止血方法、三角巾を頭や手に巻いたり足首を捻挫しても歩けるように使う方法を学んだり、毛布を担架代わりにして人を運んだりと、好奇心旺盛な高校生にはまるで体験アトラクションのように楽しかった。最終日には筆記試験が行われるのだが、前日、講師が「救命は時間との闘い。遅刻は厳禁です。絶対に寝坊しないように」と釘をさしたのにその日に限ってすっかり寝過ごし、試験始まりのチャイムと同時に教室に駆けこんだのはいい思い出である。

その後もずっと継続して受け続け、大人になってからは東京消防庁の講習を受講している。再講習では、AEDと胸骨圧迫、のどの異物除去がメインになっていた。のどに物をつまらせる人が多いようだ。また、コロナ対策も盛り込まれ、傷病者を発見したときは周囲の人に「換気をしてください!」ということになっていた。口元から息を吹き込む人工呼吸もしなくていい。血液中に酸素が含まれているので胸骨圧迫だけで救命効果があるからだ。

3年に一度の再講習を終え、情報もアップデートし技術も見直し、これで家族がいつ倒れても大丈夫だ。しかしふと気づく。うちの家族は誰一人として救命講習を受けていない。私が倒れたらどうなるのだ。私が教えればいいのだろうが、うちにはAEDも胸骨圧迫をさせてくれる人形もない。早くやる気になって講習を受けにいってくれと毎日、強く念じている。

(2022年2月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員