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けんかっ早いけど人が好き Vol.19

免許返納

運転免許証を返納した。私ではない。両親である。

母、85歳で免許返納を決断。卒業、おめでとう

父、90歳。母、85歳。父はだいぶ前から自粛して運転をやめたのだが、母は85歳の誕生日までほぼ毎日運転しまくっていた。そんな歳まで運転させるとは家族としてどうなのよと叱られそうだが、私は、個人差という言葉をこれほどまでに突き付けられたことはない。母は恐ろしいほど元気なのである。

毎週、太極拳に通い、背筋はピンと伸び、歯は一本も抜けておらず(髪は抜けたけれど)、このところ小食になったのよと言いながら私よりも食べる。毎日の料理はホイホイとこなし、私が顔を見せにいくと必ず大量のおかずを持たせてくれる。この年齢だとふつう逆だが、人には得手不得手があるので仕方ない。

当然、スマホも使いこなす。新聞広告にあるQRコードから通販サイトに飛び、乗り換え案内を駆使して電車にも乗る。LINEアプリの友達は数十人。最近では動画も送ってくるようになった。ここだけの話(原稿を書いている時点で全面公開なのだが)、内心、私は母のことを化け物と呼び、もしかしたら死なないのではないかとさえ思っている。そんな状態なので、運転をやめろとは言えなかったのだ。

ただ、80歳で被害軽減ブレーキ付きの軽自動車に買い替えたとき約束をした。夜と雨は乗らない。他人をのせない。小中学生の通学時間帯は運転しないなどである。そして85歳を迎えたとき、母から免許を返納すると言ってきた。元気なうちにクルマなしの生活スキルを身につけたいとのことだった。正直なところ、実家をとりまく交通環境ではクルマなしの生活は不便だろうが、母から降りると言ってくれたことに心からほっとした。

免許返納後、私の認識以上に母はたくましいことを知った。返納前にバスの路線図を入手し、家のそばにバス停を作ることに成功していたのだ。返納から一か月、日々の食品はネットスーパーを活用し、お菓子はコンビニの新製品をチェックしている。クルマがなくても、間違いなくこのまま生き延びていくだろう。

さあ、次は私の番である。しかし、私の場合は運転自体が好きなので、クルマなしの生活は考えられないぞ。免許返納の決断……できる気がまったくしない。どうしよう。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員