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けんかっ早いけど人が好き Vol.22

水が飲みたい

白湯は今でこそ、体によいものとして扱われているが、私のなかではずっと貧乏くさい飲み物という位置付けだった。単なる水を沸かしただけの、しかも少しさめたもの。これを貧乏くさいと言わずしてなんとしよう。

愛用しているマイボトル

とは言いつつも、白湯は私にとってベストな飲み物である。私は食べなくても水があれば生きていけるんじゃないかというくらい水を飲む。ゆえに、外出先でも水分補給が欠かせないのだが、カフェでは注文できるものがないのだ。炭酸が飲めない。カフェイン入りは午前中にしか飲まない(午後に飲むと眠れなくなる弱点がある)。甘い飲み物は苦手。ならばペットボトルの水を買えばいいのだが、冷たいのも苦手なので自販機やコンビニでキンキンに冷やされたものは躊躇してしまう。消去法で残ったのはぬるま湯。つまり白湯である。これを自分で持ち歩くしかないのだ。

しかし、白湯は貧乏くさい。隠すために私は、魔法瓶タイプのマイボトルを活用した。これなら外から中身が見えないので「あの人、ぬるま湯飲んでる。貧乏くさーい」と言われずにすむのである(自意識過剰)。そのうち、複雑な飲み口の魔法瓶タイプのマイボトルを毎日洗うのが面倒になり、シンプルなプラスチック製のマイボトルに変えた。中身は水道水(常温。一応、浄水器)だ。ありがたいことに健康ブームで白湯が市民権を得た今、もうばれても貧乏くさいと言われることはないのである。

さて先日、電車内でマイボトルを取り出したときのことだ。私の向かいに座る人が、私の手元を恐ろしそうに凝視しているではないか。しまった、水道水だとばれ、貧乏くさい女と思われたか……。そのときに気づいた。半年ほど前、都内を走行中の電車内で液体を巻いて火をつける事件があったっけ。向かいの人は私の手にある液体を、可燃性のものではないかと疑っていたのである。どうしよう、このままカバンにもどそうか。いや、それではよけい怪しまれてしまう。私は決心し、マスクをはずし水道水をぐびーっと飲んでみせた。すると、もう彼女は私を見ていなかった。疑惑は晴れたのである。それにしても水すらゆっくり飲めないとは、水なしでは生きていけない人間には、生きにくい世の中になったものである。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員