日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

Voice

RaaSモデルのAMRで日本市場を攻略

シリウスジャパン 社長 グレース・ニエ氏

柔軟性と導入の手軽さを武器に、需要が急拡大するAMR(自律走行搬送ロボット:Autonomous Mobile Robot)。様々な企業が市場参入するが、中でも存在感を高めているのが中国 深センに本社を置くスタートアップ企業 シリウスロボティクス(2018 年設立)だ。得意の画像認識技術を活かした物流向けAMR をRaaS(Robotics as a Service)形式で展開し、日本における導入件数を加速度的に増やしている。躍進の要因は何か。日本法人 シリウスジャパンのグレース・ニエ社長に、同社の強みや日本におけるビジネスについて聞いた。 

――事業概要を教えてください。 

「シリウスロボティクスは2018年、中国深センで誕生したベンチャー企業です。19年には日本法人(シリウスジャパン)を設立しました。日本で展開するのは可搬重量の異なる3機種のピッキング用AMRAMRを管理するクラウド型プラットフォームサービス『FlexGalaxy』と合わせて初期費用なし、月額定額制で提供しています。月額費にはコンサルティングやアフターサービスも含まれており、ロボットに異常が起きても3営業日以内に交換可能。ユーザーデータは全てクラウドにあるため、交換したAMRも現場に着いた瞬間から他のAMR同様に稼働できます。言い換えると、月額料金を頂ければ契約台数のAMRが現場で稼働することを我々が保証するというサービスですね」 

――サブスク方式でサービスを提供する狙いは。 

「初期費用を抑える狙いもありますが、最大の目的はソフトの柔軟性を最大限に発揮すること。我々はよく『ロボットメーカー』と言われますが、我々自身は自社を『ソフトウェアサービス会社』と捉えています。もちろんAMRは自社で開発製造しますが、あくまで核はソフトという考え方。そうした観点に立つと、月額課金という形ならソフトウェアアップデートを行うことでユーザーに対し常にベストなサービスを提供できます。ロボットの売り切りでなくスマホのように常に製品に使いやすさを加えていき、陳腐化を防ぐのがシリウスの方針です」 

――アップデートの頻度は。 

「頻度は現在週1回程度です。中国や韓国などでも事業展開しており、そうした各国の現場でリサーチした最新需要がソフトの機能として随時追加されます。我々はユーザーの要望に沿った個別のカスタマイズは行わない方針ですが、それが普遍的なニーズであればすぐに開発ロードマップに組み込まれ、ユーザーは追加料金なしでその解決策を得られます。またAMRはユーザー自身がアプリで様々な設定を簡単に行うことが可能。設定のためエンジニアを呼ぶ必要もなく、携帯アプリ感覚で簡単に運用できます」

■成長の鍵はスピード感 

――足元の景況感は。

ECの伸長に伴い、AMR需要は非常に高まっています。1月の展示会でも多くの引き合いを獲得しており、既存ユーザーへの横展開も含め22年はとても忙しくなる見込みです。目標としては22年に日本全国におけるAMRの稼働台数を1000台から1500台に、23年は4000台規模に高めることを目指します。シリウスは各国で市場調査を行っており、いずれの国でもAMR需要は拡大中。そうした傾向を踏まえても、この数字は実現可能性が高いと考えます」 

――自社の成長要因をどう分析しますか。 

「外因としては人手不足ですが、内因としての最大の要素は速度です。我々は3日間で完結する実証実験パッケージを提供していますが、これは他社では難しいスピード感。ユーザーの稼働後の時間を使って2日で設定を行い、休日に1日でテストを行うので稼働も妨げません。実証実験は決まった翌週に行うスピード感で動いており、ユーザーもAMRが現場に適するかの肌感をすぐに掴めます。開発もスピーディで、例えば月頭に実証実験を行い、そこで出た課題を解決する機能が月の中旬にはソフトウェアアップデートでプロダクトに反映される。この速度感で対応を行うことで、ユーザーとの間に信頼感も生まれます」 

――スピード感を発揮できるのはソフトを核に事業展開されているからだと思いますが、他社と比べた強みもやはりソフト面でしょうか。 

「自社をソフトの企業と捉えてスピーディな開発を行い、日本も含めた世界中の物流現場における課題への答えをソフトの機能として随時実装できるのは他社と比べた大きなアドバンテージです。加えてハード的にも、我々の展開するAMRはそもそも日本の狭い通路幅に対応できるよう日本向けに開発されたもの。中国向け製品の『日本ローカライズ』ではありません。また創業者が画像認識専門のエンジニアのため、走行制御はレーザセンサ主体でなく技術難度の高いカメラが主体。レーザセンサを補助的に用いることでコストを下げ、ハードウェアのフルサポートまで含めた月額定額サービスの提供を可能にしています。技術発展著しい深センに本社があるのも優位で、豊富なOEM先があり、開発や量産、生産拡大などに柔軟に対応できます」 

――日本市場における手ごたえは。 

19年から日本でAMRを提供していますが、従来型のAGVの印象が強くまだまだAMRの利便性が伝わっていないユーザーが多いのも事実。しかし我々が接触したユーザーにはAMRのメリットを理解いただけています。我々のサービスは従来の売り切り型・固定的な設備とは違い、初期投資や拡張性、アフター対応などの点で優位性が大きい。しかし常に満足度を高めないと解約されてしまいますので、このビジネスモデルは我々としても大きな挑戦です。契約期間後も継続いただけるよう努力を続け、ユーザーに対し常にベストなサービスを提供します」

AMR(機種名Comet)現場稼働写真.jpg

現場で稼働するAMR。ピッキング指示が届くとAMR が商品のある棚に自動で移動し、作業者は搭載されたタッチパネルの情報をもとにピッキングを実施。ピック&スキャンが終わると梱包エリアへ自律走行する。作業者の歩行距離を大幅に低減できるシステムだ