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TONE、売上高1.6倍に向け「4P」強化

深化と探索で目指すニッチトップの座

代表取締役社長 矢野 大司郎 氏

「ボルディング・ソリューション・カンパニー」を標榜し、総合工具メーカーとして長年モノづくりの世界を支えてきたTONE。設立83年を迎える同社の経営のバトンは今年8月、7年にわたり社長を務めた松村昌造氏(現代表取締役会長)から矢野大司郎氏へと受け継がれた。そこで本紙では、矢野大司郎代表取締役社長に就任にあたっての抱負や今後の方向性を聞いた。

プロフィール
やの・だいじろう 1957年生まれ。81年4月前田金属工業(現TONE)入社。00年9月製造部次長、06年3月製造本部副本部長、同年8月取締役、15年8月常務取締役を歴任。21年8月から現職。趣味は読書で、歴史を扱う本を中心に幅広く読む。好きな言葉は「今日に最善を尽くす」で、嫌いな言葉は「検討します」。「決定を先送りにしても良いことは何もありませんから。今日に最善を尽くさねば明日はないという思いで日々過ごしています」

先読みが難しいタイミングでの就任となりました。抱負や重点取組項目などは。

「いわゆる4PProductPricePromotionPlace)を今一度見直し、在任中に売上高100億円と海外売上比率50%の達成を目指します。売上高は直近で612億円、海外売上比率は25%前後ですから、それぞれ16倍強、2倍にするということ。明確な時期はまだ言えませんが、できるだけ早期に達成したいと考えています。要はとにかく数字にこだわるということです」

―4Pの見直しとして、具体的にどのようなことに取り組まれますか。

Productでは、新製品の開発と既存製品の見直しの双方に力を入れます。TONEは開発主導の会社で、現在まで多くの新製品を早いペースで世に送り出してきました。新製品には他社が先行する領域をカバーする目的の『追いかける新製品』と、類似品が世に存在しない『全くの新製品』がありますが、両方を重視します。同時に既存製品を見直し、より良い製品に仕上げることで、総合工具メーカーとしての相乗効果を発揮する考えです」

「またPriceの面では、できる限り現状の販売価格の維持に努めます。当社はここ12年値上げしていません。材料費は上昇傾向にありますが、製造のコストダウンで相殺し競争力を維持します。そしてPromotionでは、二輪・四輪などレース関係のスポンサー活動を今後も継続します。これは知名度向上のためでもありますが、メカニックとのつながりが生まれ新たな特殊工具を製作したり、既存工具を改造・改良することも多い。現場の生の情報を得られるという点で大きなメリットを感じています」

成長を目指す上での有望領域は。

「有望領域については昨今の激しすぎる市場変化を鑑みるに、明確には言えないのが正直なところです。例えば自動車燃料の方向性など、不確定要素が多い。そうしたことを踏まえると、成長に向けては既存技術をより高めつつ、それ以外の分野における新たな可能性を探る『深化と探索』の両利き経営が重要と考えます。例えば『深化』では、電動レンチのコードレス化や知名度が上がってきたトルクレンチのラインアップ拡充、作業工具の深化に努め、ボルディング・ソリューション・カンパニーとしての存在感をさらに高めます」

「探索」の方針は。

「いずれボルトが無くなるかもしれないということを想定し、TONEの現有技術を活用した新製品を開発する必要があるでしょうね。現に素材が鉄から樹脂に代替されるなどボルト・ネジは減少傾向ですし、EVシフトが進めば自動車のエンジン向けなどで更なる需要減に直面するかもしれません。そこで例えば『回転させる技術』やギア関連などTONEの得意分野を今一度見直し、新しい製品を創出できないかと。具体的な形はこれから練り上げますが、決めているのはニッチな領域を狙うということ。いわゆるニッチトップを狙える分野を攻めたいと考えています」

■ ブランドで指名買いされるメーカーへ

製造本部副本部長を務めるなど、生産現場を長年主導されてきました。ご自身の考えるTONEのモノづくりにおける強みとは。

「我々は製造主導ではなく開発主導の会社。社内外の設備を活用しつつ、開発が描いた図面を必ず形にするという点に強みがあります。出てきた図面に対し加工条件やコストなど様々な要素を生産技術力で最適化し、それを社内外へ割り振ることでベストな形でモノづくりを行う。図面を形にする力はユーザーの要望に応える力とイコールですから、今後もこうした生産の在り方を継続していきます」

就任にあたり、TONEの「ファンづくり」を重視する項目に掲げられました。YouTubeを活用したPRにも積極的な印象ですが、そうしたブランド力向上に向けた戦略をお聞かせください。 

「良い製品を作るのが一番の宣伝ですが、それに加え各種レースへのスポンサー活動を行うことがPR戦略の柱。またYouTubeでもレーサーの方に出演・拡散いただくなど複合的な宣伝効果が出ていますから、スポンサー活動とYouTubeには引き続き注力します。以前はTONEという会社を説明する際に『日本で最初にソケットレンチを製造販売した会社です』という一文が必要でしたが、そうした枕詞なしで通用する会社にすべく、PR活動に力を入れるようになりました。要するにブランドで指名買いされるメーカーでありたいということですね。現状、TONEの知名度はひと昔前と比べ随分向上したと考えますが、さらなる認知、ひいては指名買いの増加を目指していきたい。それが目標に掲げた売上100億円の達成にもつながりますし、それを達成できたならば市場で認知が進んでいるという指標になるのではないかと。そうした意味もあって、数字にはこだわるつもりです」

20211125日号掲載)