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識者の目

真潮流〜13

「つなぐ化」技術がさらに重要に ー実現しやすい工作機械構造の検討も必要ー

最近の国際工作機械見本市では、製造現場の「見える化」が大きなテーマとなり、ものづくり現場の「IoT化」と「デジタル化」が進められている。このため、インターネットによる「もの」と「もの」をつなぐ技術の重要性がますます高まっている。しかしながら、最近の国際工作機械見本市での動向を見ていると、IoT以外にも、多くの「つなぐ技術」が必要になっていることに気が付く。

個の量産を指向する工作機械構造の事例

先ずは、工程間をつなぐ技術である。インダストリ4.0では、個の量産を目指して、組立ラインをモジュラ構成のセルにして、作られる製品に応じて、使う組立モジュールをダイナミックに変更可能とする「ダイナミックセル生産方式」が指向されている。また、同様に、個の量産加工に対応可能な工作機械も必要となっている。ヨーロッパでは、その取組みは、表向きには進んでいないが、静かに進展しているように感じる。その一つが、図に示すような、リニアトランスファマシン、ロータリトランスファマシン、多軸自動盤、トランスファセンタなどである。これらは、量産向きに使われてきた機械であるが、これを多品種少量向きに進化させた機械が開発されている。その共通的なコンセプトは、各ステーションの加工モジュールを工程集約化することだ。ミリング系であれば、5軸加工機能や、2基のATCの搭載など、旋削系であれば、工具本数増大のためのタレット刃物台や、自動盤加工機能モジュールの搭載などで対応している。このようにして、各ステーションで多くの加工工程をこなせることから、巧みな工程設計を行なうことにより、各ステーションでのサイクルタイムをほぼ同じにでき、異種工作物を同じ機械上で、混在して流せるというわけだ。

一方、最近の3Dプリンタの生産能率の向上に伴い、積層後の仕上げ加工用工作機械とのつなぎをスムーズに行ないたいという要求が高まっている。そのため、3Dプリンタによる積層時に、後加工のための基準面を加工しておく、3Dプリンタで標準化されたパレットを用い、そのままスムーズに工作機械に搬送し、位置決めして固定できるようにするなどの取組みがなされている。また、積層された工作物を造形プレートから精度良く切り離す専用機の開発もすすみ、その際にも、3Dプリンタとの接続性が考慮されている。

3Dプリンタによる部品製造には、造形に適した部品形状への修正設計、造形準備作業、造形、検査、工作機械での仕上げ加工準備と仕上げ加工、造形品の切り離しなど、多くの工程がある。これらの工程のシームレスな接続を支援する「プロセスチェーン」実現のためのソフトウエアも提案されている。

さらに、工作機械を核としてセルシステムを構成することが多くなっているが、その中で使われる工作物マガジンやツールマガジンを工作機械とスマートにつなぐ取組みがなされている。できる限りコンパクトなスペースで、その容量をできる限り大きくすると共に、ロボットなどを活用して、工作機械との接続性を高めるなど種々の工夫がなされている。

この他、複数台の工作機械、工具・工作物ストレージ、測定装置などを、多機能モバイルロボットが工作物や工具を搬送しながらつないで、スマートファクトリを実現するなど、つなぐ技術が進展している。

以上のように、IoT以外にも、多種多様なつなぐための技術が必要となっており、今後は、ものづくり現場の「つなぐ化」技術がさらに重要になっていくものと思われる。また、これらの要求に柔軟に応えられる工作機械構造の検討も必要だ。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。