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山金工業、快適な空間をカタチに

木のデザインとモノトーンが印象的な慶応病院の廊下。半自動の上吊引戸「シャトルドア」が使われている

ドアからワークテーブル、ウォールまで

 作業現場に使われる「ワークテーブル」でお馴染みの山金工業(福井市)は様々な顔を持っている。病院や福祉施設で使われるシャトルドア、学校用間仕切り(ウォール)に代表される建材部門がそうだ。売上全体の約半数を占めるほど。前提条件である安全性を十分に確保しながら、設計事務所の意匠に対するこだわりにも応える一貫生産体制で「空間創造」に一役買っている。
 1912年、山下金庫製作所として創業。サッシ、文書管理棚「アレンジャー」、ウォール、ワークテーブル、シャトルドアと、枝葉が増えるように事業領域を拡大していった。従業員数182人(20207月時点)。地元の福井県では「やまきんさん」の名前で親しまれている。
 いずれの商材にも共通しているのは、快適な空間につながる存在であること。ストレッチャー(担架)や車いすを使う病院では、レールのような段差がなく、さらに防火性や遮音性のある上吊引戸が好まれる。ワークテーブルは、作業内容や使用者によって最適な高さや天板の広さが違う。つまり、現場の数だけ答えがあるということだ。
 社長室の武蔵英樹室長は、「お客様の意図を汲み取ったうえで、安全性、意匠、快適性、納期などの付加価値を足す。『使って良かった』『依頼して良かった』と思ってもらえるように、感動をカタチにするのが当社の使命」と話す。
 建材の場合、建築図面の段階で決まることが多いため、設計事務所へのPR活動が重要となっている。受注後、現場打合せにより仕様の詳細を決定する流れになっていることから、営業部とは別に、2017年に建材部門に設計部を新設。「仕様を顧客要求に合わせて仕様を細かく決めるだけでなく、施工管理への貢献も担っている」という。
 山金工業では意外なモノもつくっている。郵便局(ゆうちょ銀行)に必ずと言っていいほどあるATMの間仕切りやサイン(看板)だ。東京と大阪の両支店に特販営業部を設け、全国規模で対応する。
 武蔵室長も「民営化になる前から携わっている。始めた当初こそ厳しかったものの、現在は比較的に安定している。顧客からの信頼を得ている」と手応えを感じる。

繊細な意匠にも対応
 製品は、福井市内にある森田工場で生産している。特注制作も得意としているだけに、パネルベンディングマシン、ファイバーレーザー加工機、粉体塗装ラインを数多く揃えている。
 粉体焼付塗装を30年以上手がけてきただけにメニューも幅広い。有機溶剤を使用しない「ゼロVOC不燃粉体焼付塗装」、壁面や扉をホワイトボードのように利用できる「WBC粉体焼付塗装」、屋外でも経年劣化をしにくい「高耐候性粉体焼付塗装」などがそう。塗装で繊細な木目調や絵柄を再現することもできる。
 「塗装とプリント技術に投資するのは、環境配慮だけでなく、意匠に対応するためでもある。設計士が特徴を出すためにこだわっている部分だからだ」(武蔵室長)
 2017年、受注から出荷まで一括管理が可能なIoTシステムを導入。案件ごとに進捗管理ができるようになったことで、施工管理や顧客対応のスピードが一層増した。さらに昨年から、開発、営業も含めた横断的な取り組みとして「原価低減プロジェクト」をスタートさせた。
 「時間あたりの生産性を20%上げるなど、1年ごとに目標を設けて価格競争力を高めていくのが狙い。終わりのない取り組みと考えている」
 森田工場で毎年開いていた「ヤマキンフェア」がコロナ禍で開催が難しいことから、オンラインでの実施を模索しているところ。これまでは建材部門の製品を中心に展示。ラインナップと安全性をアピールする一方、切断から塗装までラインもすべて見せることで、特注にも柔軟に対応できる強みも見せてきた。
 「現在は事前予約で工場見学を受け付けている。とくにゼネコン関係のお客様は、納期・品質管理に対する関心が高く、工場見学の希望も少なくない。オンラインで当社の強みをどう伝えていくか。まだ検討段階。課題は多い」

年功序列を廃止
 2018年、人事評価の在り方も見直した。部署、役職などに合わせて行動基準と評価項目を設けて評価するというもの。年功序列を廃止し、成果と行動に見合った給与にすることでモチベーションのアップにつなげる。
 「役職定年はなく、辞めるまで昇給できるシステム。お客様の要望に応え、常にお客様の視点から物事を考えられているのか。お客様とは、顧客だけでなく、取引先、社内も含めた仕事相手のこと。製造なら工程に携わる人だ。『お客様満足』は感動に、ひいては利益につながる」
 評価項目は、総務部と社長室で構成する人事評価・人材育成委員会で適宜見直している。武蔵室長は「社長方針である『社員の幸せと会社の成長は両輪』」と話し、人材育成に一層力を入れる考えを示した。

2021325日号掲載)