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ポスト・リチウムイオン電池

全個体電池リードも多士済々

トヨタの全個体電池EV

世界中で脱炭素の波が拡がるなか、あらゆるモビリティの電動化が進められている。その鍵を握るのがリチウムイオン電池(LIB)に変わる次世代電池だ。

車載向けの次世代電池の筆頭格が全固体電池。正極、電解質、負極の全てが固体で構成されるため、セルごとのケースが要らず、体積および質量エネルギー密度を高くできる。

電解液も不要なので液漏れの心配もなく、高い安全性を確保できることに加え、温度特性にも優れる。従来のLIBでは摂氏60度で性能劣化し、マイナス30度では凍結してしまうが、全個体電池はこういった心配がなく、高電圧化による急速充電にも対応できる。さらにLIBに比べ性能劣化が起こりにくく長寿命が期待されており、世界中で研究が急速に進められている。

トヨタは昨年、電池戦略説明会で、全固体電池を搭載したEV車の公道走行をすでに始めたことを発表した。量産車も2020年代中盤以降に投入する構えだ。日産自動車も、2024年までに全固体電池の試作ラインを横浜工場に設置、2028年度に実用化する計画を発表。しかもLIBに対しエネルギー密度を2倍にし、さらにコストダウンを図っていくという。

欧米メーカーではフォルクスワーゲングループが2028年に全個体電池EVを市場投入すると発表。中国勢は蔚来汽車(NIO)が航続距離1000㌔の全個体電池EV2023年にも市場投入するとしているが、こちらは電池サプライヤーが明かされておらず、実現に至るかどうかは不明だ。

■日系企業は特許数で独走

この全個体電池をも上回る性能を秘めているのがリチウム硫黄電池(LIS)だ。LISはニッケルやコバルトといったLIBに使用されている正極材料に替わって硫黄を使うため、製造コストが大幅に抑制できる。加えて高性能LIB3~4倍の高エネルギー密度のため、EVのみならず航空・宇宙向けへの活用も期待されている。

これまでの研究の過程で、LISは充放電を繰り返すと容量が著しく減ってしまう課題があり、実質的な使用回数は数十回程度に留まっていた。しかし昨年、米Lyten社が充放電1400回をクリアしたLISを発表するなど、著しい進化を遂げている。

材料上も比較的安価でセル当たりの体積エネルギー密度はLIBLIS、全個体電池に比べて大きく勝るのがフッ化イオン2次電池。こちらの研究も日本を中心に進められており、2030年初頭には実用化されると見られている。

世界中でバッテリー研究が進む中、我が国は「世界を若干リードしているが、全く安心できない」という立ち位置にある。次世代電池に関する特許申請数はトヨタが世界首位、ホンダ2位、ベストテンには6社がランクイン、ベスト50にも多くの日系企業が名を連ね、世界をリードする存在となっている。

しかし、2019年にLIB研究で吉野彰氏がノーベル賞を受賞したが、現在のLIB生産は中国・韓国勢がメインプレイヤーだ。こうした轍を踏まないためにも、開発競争だけにとどまらない量産・普及戦略が重要になるであろう。

(2022年3月25日号掲載)