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北部九州のモノづくり(中)

グローバル展開する機械・ロボットメーカー

2012年に完成した精密第1工場。決められたタクトタイムで作業者が動いていく。

西部電機(福岡県古賀市)

精密機械事業部 事業部長 兼 海外営業部長 松下 和宏 氏

精密なワイヤ放電を精密な生産管理で


東邦電力(現九州電力)の修理工場だった東邦電機工作所九州工場を前身として創業した西部電機(1927年創業、社員473人〈連結525人〉)。全社売上の3割を占める精密機械事業では先月のJIMTOF2020 Onlineで、800mmストロークにおいてもピッチ加工精度±1ミクロンを実現するワイヤ放電加工機「SuperMM80B」などを発表した。

―精密機械事業は中国向けを中心に売上が好調のようです。

「中国向けは2018年ピークに近い引き合いをいただいています。今年2月だけ少しダウンしましたが、そこからは為替の安定もあって旺盛な購入意欲が感じられます。一方で国内は例年に比べ3割減。自動車関係が若干動き出しましたが、完全に戻るかどうか。国内景気は自動車が動かないことには改善しませんからね。国内外全体の売上としては前年度よりプラスで18年ピークに近いです」

―ワイヤ放電加工機が占める割合はどれくらいですか。

「ワイヤ放電以外にくし刃旋盤、くし刃旋盤をベースに砥石スピンドルを付けた機械もあり、月に約60台生産しています。ワイヤが売上の8割を占めます。海外比率は7割ほどですが、今年度は8割まで高まりそうです。これまでワイヤは中国に汎用タイプ(MBシリーズ、ピッチ精度±3ミクロン)が多く出ていましたが、下期からは1ランク上(MMBシリーズ、同±2ミクロン)がよく出るようになりました。タブレット端末の金型などの加工に使われるものと思われます。今は現地になかなか行けないので用途が掴みづらいのですが」

―製造プロセスで重視していることは。

「ワイヤ放電の汎用MBシリーズについては月々の生産量に対してタクトタイムを決めています。たとえば作業者1人の1日の持ち時間を240分(4時間)×2回とし、1ラインで1日に2台製造する流れです。自動車生産に近い。一人ひとりがピタッと時間を守らなければラインがスムーズに流れません。作業の早い人のタクトタイムに合わせられるよう教育しています。工場内は22±1.5℃以内に保っています。これに対し上位のMMB、Ultra MMBシリーズの製造環境は±0.5℃。これを超えるとアラームが出る設定なので実際には±0.2~0.3℃に保っています。作業者1人が1台付きっきりで、キサゲをはじめ手作業の割合が多くなるので新入社員には任せられません」

―販売戦略で重視されていることは。

「当社社長の宮地敬四郎の言葉『ウチは精度で勝負する』が端的に示しています。他社に価格で勝てないが、精度で負けるなと。精度を落としてまで安くしようとはせず、品質にこだわっています。長時間の高品質加工ができることでお客様に納得いただき、それがリピート販売につながっています」

―最も大きな課題は。

「先ほど申し上げたように上位機種の生産は、入社1、2年目ではできず、教育強化が欠かせません。たとえば社内のキサゲ検定で何級以上でないとこの組立はできないと決めています。リーマンショックで精密機械事業部の中間層の社員が減り、若手がメインとなりました。だから若手をいかに育てていくかが課題です。それと中国向け売上が多くなり過ぎていてリスクがあるので、東南アジア、米国の比率を高めて世界的な販売バランスもとらねばなりません」

NITTOKU(長崎事業所=長崎県大村市)

執行役員 長崎事業所長 核心技術応用事業本部 事業本部長 笹澤 純人 氏

技術者集団、共創と競争で世界で勝つ

客に納める前の10mに及ぶ特殊な専用自動生産ラインが複数並ぶ一方、見込み生産している標準巻線機が48台も並んでいた(写真右)。投資するのは設備ではなく「ひと」。強みは「図面からさらに追い込まないとできない匠の仕上げ」という。

コイルを自動で製造する巻線機およびその周辺機器を開発・製造するNITTOKU(1972年設立、本社・埼玉県さいたま市、社員約450人〈連結約840人〉)。国内(2)、中国(3)、欧州(1)の6工場をもち、経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」に2回連続で選ばれた(2014年、20年)。18年11月に拡張した長崎事業所を訪ねた。

―自動巻線機の世界シェアが1位だそうです。

「使われる業界が自動車やスマートフォンなど多岐にわたり、お客様それぞれの生産技術のこだわりもあってカスタムでつくっています。お客様のニーズを聞いて、そのお客様の意識の外にある、驚くような設備をゼロから形にします」

―工場を長崎と福島にお持ちです。

「福島事業所では巻線システムを中心としたFA設備やICタグなどを製造し、121人いる長崎事業所ではFAを中心とした新規事業を担っています。需要業種としては自動車向けが44%、情報通信向けが22%を占めます。海外受注が半分を占めますが、仕向地ベースでは海外が7割に。当社の社員は製造部門に集中し(378人と84%を占有)、技術者集団です。巻線システムで培ったテンション・継線・制御・組立・搬送・微細なハンドリング・情報処理の7つがコア技術です。毎年20~30人の技術系新入社員を採用する一方で、中途社員も10~20人の技術者を採用し社内にない感性を取り入れるようにしています」

―ハイブリッド車、電気自動車の普及は貴社にとって追い風です。

「モーターコイルの生産に巻線機が使われますから確かに追い風です。自動車については特に駆動モーター分野を積極的に事業拡大しています」

―技術者集団である以上、人材確保・育成が課題になりそうです。

「長崎や福島だけで技術者を集めるのには限界があります。18年度に設けた四国テクニカルセンター(愛媛県松山市)でも採用を強化しており、今後は国内各地に拠点を設けて多様な技術、マインドを持った人を集めたい。長崎事業所ではこれまでのワインディングシステムBU(ビジネスユニット)、メカトロニクスBUにインスペクションシステムBUを加えました。画像・光・電気検査装置の開発を担い4人でのスタートですが、覚悟を持って屋台経営からやれというのが社長の近藤進茂の方針です。会社を買ってもいいし、足りない人材は外から引っ張ってこいと、ここまで言われるとやれない理由を探す方が大変です」

―協業でのこだわりは。

「新規事業は1業種1社の方針です。半導体やワイヤハーネスなど各業種で1社との取引を選択し、パートナーシップを構築したらそこと競合する企業には、戦いの道具ともいえる設備を販売しないというポリシーがあります。その一方でビジネス上の協業は積極的に行っています。国内にはきらりと光る技術を持っているのに、お客様の生産拠点の海外移行に伴って、縮小を余儀なくされている企業が沢山あります。当社のグローバル拠点を活用し、これらの企業の技術を用いた生産設備を世界展開することも一つの事業です。お客様のニーズとの摺り合わせ、その技術の仕込み・味付け・盛付け、販売からメンテナンスサポートまで、当社に求められることです。共創と競争は両方やります。主戦場はグローバルですから、お客様と共に地球儀で勝たないといけません」


安川電機(福岡県北九州市)

ロボット事業部 事業企画課 課長 豊岡 一義 氏

簡単に設置してすぐ使えるロボットを製造

2019年に導入した10kg可搬の人協働ロボット6台が作業者のそばでグリス塗り作業などをサポートする。

北部九州を、いや世界を代表する製造業の1社と言ってもいいだろう。モーターづくりから事業を始めた安川電機(1915年創業、連結社員1万5179人)は言わずと知れた世界4大ロボットメーカーの1社。連結売上4110億円(2020年2月期)の37%を占めるのがロボット事業だ。

―ここでは小型のロボットを生産されているそうです。

 「ロボットはここ八幡西事業所、中間事業所(福岡県中間市)、中国・常州、スロベニアの4拠点で生産しています。ここでは可搬25㌔グラム以下の小型機種と、フラットパネルディスプレイ、ウェーハなどを製造するためのクリーンロボットを製造。中間では可搬50~800kgの大型機種を製造します。グローバルでの生産能力は月に4千台。その半分以上を日本の2工場が担っています。これまで自動化が進んでいなかった食品分野や工場内搬送での広がりを期待しています。外需は約7割を占め、一番多いのは中国向けです」

―正門から工場に歩いて来る途中、建設中の巨大なビルが見えました。

「グローバルの研究開発の総本山となる安川テクノロジーセンタ(4階建て、延床2万6千平方m、2021年3月竣工予定)の完成が近づいています。延床面積は本社ビルより大きく、お客様に自動化技術を身近に感じてもらうデモエリアも備えます。要素技術(4階)→基礎技術(3階)→製品につながる技術(2階)→アプリケーション技術(1階)と徐々に完成した製品に近づく構成で、一気通貫した施設です」

―ロボット製造でのこだわりは。

 「ISO9001をはじめとするルールにきちんと従って製造し、品質を担保しています。ロボットは決められた動きを何度も何度も繰り返すので、組立完了後に全数を試験動作させながら3Dデータで測定して繰り返し位置決め精度をチェックします。可搬重量と同じ重さの重りを持たせてテストを行っています」

―海外出荷は今後も強化しますか。

「もちろんです。海外ボリュームはロボット事業に限らずここ数年増えていますから。とりわけ中国はコロナ禍での需要減からの戻りも早く、今後も重要な市場です。一方で国内は好調な半導体分野の動きを見ながら、自動車分野がどう回復するのかに注視しています」

―人協働ロボットも発売されました。

「産業用ロボットを長年使ってきたユーザー様はその効果的な活用の仕方を知っていますが、そうでないお客様もターゲットにしている以上、これからは簡単に設置してすぐ使えるということが大事です。それを具現化した製品が人協働ロボット。人とロボットでエリアを共有したいというニーズが増えています。人協働ロボットはエリアを隔てる安全柵を必要としません。当社のMOTOMAN-HCシリーズはモノづくりを最も強く意識しました。可搬10kgと20kgタイプで構成し、塗布片の混入を防止し清掃が容易な食品環境タイプ、台車にアームを搭載したハンドキャリータイプも用意しました。人協働ロボットは新興企業を含め様々なメーカーが発売していますが、20kg可搬は珍しく、質量のあるワークやツールを扱えます」

―最も大きな課題は。

「需要量の変化が激しい時代ですからロボット製造の自動化をさらに進める必要があります。それが整えば、需要量に応じ、柔軟に生産をコントロールすることができますから」

次号では(一社)モノづくりネットワーク九州と、医療・超精密分野を狙うその会員企業を紹介する。