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【座談会】アフターJIMTOF2020 工作機械技術の動向と今後

スマート工場実現へ、技術開発が活発化

中村留精密工業 代表取締役社長(一社)日本工作機械工業会 副会長 中村 健一 氏
ファナック 代表取締役会長 (一社)日本工作機械工業会 副会長 稲葉 善治 氏
上智大学 名誉教授 日本工業大学 工業技術博物館 館長 清水 伸二 氏
司会 日本物流新聞社 編集部 デスク 牛尾 里香

左より(一社)日本工作機械工業会 副会長/ 中村留精密工業 代表取締役社長 中村 健一 氏、(一社)日本工作機械工業会 副会長/ファナック 代表取締役会長 稲葉 善治 氏、上智大学 名誉教授/日本工業大学 工業技術博物館 館長 清水 伸二 氏

充実のコンテンツと遊び心

日本物流新聞社・牛尾「まずは、JIMTOF2020 Onlineについてのご感想を」

ファナック・稲葉善治会長「このウィズコロナ時代に入って日工会会員各社とも、WEBミーティングをはじめオンライン活用に大変慣れて来られたと思います。私も各社のページを訪問させて頂きましたが、初めてとは思えないほど完成度が高かったと思いました。見たいところをピンポイントで見ることができ、周囲が騒がしくないので集中して情報を集めることができた点で、やり易く感じました。一方で、実物が目の前にない分、どうしても迫力と言う点ではリアル展にはかなわない面もありました。また、海外のオンライン展に比べると、日本は大変真面目ですね。情報をしっかり伝えようとするのは良い面ですが、もう少し遊びと言いますか、人を惹きつけるような仕掛けがあってもいいのかなという気がいたしました」

中村留精密工業・中村健一社長「同感です。お客様側から見ると飽きてしまう面があったかもしれないですね。とは言え、各社ともそれぞれ熱心に取り組まれ、準備期間が短かったにも関わらず、かなり良いものができたと思っています。こうしたオンライン展は遠方にお住いの方の参加のしやすさや、時間のロスを防ぐというメリットからみても、今後、増えていくと思います。また、今回のJIMTOFのように展示会サイトが入口となって各社のホームページ閲覧数増加につながり、その会社の技術や製品、取り組みにより関心を持ってもらえるのも良い部分でしょうね」

日本工業大学工業技術博物館・清水伸二館長「来場者の目的によって、感じ方は大きく異なったのでは。ゆっくり見るなら、コンテンツが充実していて、非常に良いなと思いました。一方で、全てのコンテンツをくまなく見るのは非常に大変です。ブース全体の構成図や、その会社が何を見せたいかの意思表示を明確に行っている企業があまり多くないので、焦点を絞りにくかったのが残念。通常のリアル展ならば、人の混み具合やブース構成などでポイントが分かりますが、オンラインだと分かりにくいですから。少し、各社のWEBブースのトップページが展示機一覧になってしまっている場合が多かったように感じています」

牛尾 「中村留精密工業では、『これぞ!』と自慢できるワークの画像や動画を一般から募るTwitter投票企画『これぞの加工総選挙』や、ウェビナーでも強みの複合加工や自動化の技術をリアルタイム中継で生き生きと紹介するなど、ユニークな展開をされていました。バーチャルサイト『留の特設ブース』で展示ブースの構成も分かりやすく、お客様の反応も好評だったのでは?」

中村 「多くのお客様に喜んで頂けたと思いますし、何より、社員たちが楽しんで取り組んでくれたのが、非常に嬉しいですね。私自身はアナログ世代ですから(笑)、オンライン活用に疎い部分もあるのですが、息子(中村匠吾専務)をはじめデジタルツールの活用が好きな人間が当社には沢山おりまして。皆が本当に楽しんでやっているから、固くなりすぎず、色々なアイデアが出てくるのでしょう。やはり、お祭りのような盛り上がりがオンライン展にも不可欠だと思います」

清水 「JIMTOFは、工作機械技術の祭典(フェア)ですから、もっとお祭りムードを盛り上げて、学生達にも楽しんで学んでもらえるような仕組みも必要ですね。その意味では、今回は、学生にはとても参加しづらかったと思います。例年は、各社のブースに学生用の受付もあったりしましたが、今回は、何とかビジネスに結びつけたいという気持ちが強く、学生のことまで考えは及んでいなかったように思います。これは、反省点の一つのですね。また、コンテンツが豊富なのは良いのですが、自分の目的に合った情報にたどり着き易い仕組みと事前情報がもっと必要と思います。各メーカのWEBブースを一つずつ視聴していると大変疲れます。IMTSやEMOの会場を一日歩き回っていた方が精神的な疲労も無く、夜のビールも美味しくて充実感があります」(全員笑)

牛尾 「学習という点では、JIMTOFと連動するファナックの独自サイト

『FANUC DXCE(Digital Transformation Customer Engagement)』も人気を集めたのでは。FAからロボット、ロボドリル、IoTまで多分野の最新技術とソリューションの動画がふんだんに用意され、何度でも確かめながら学べる魅力を感じました」

稲葉 「JIMTOFでの掲載情報より、さらに詳細な情報を求められる方には良かったと思います。また、中長期の設備計画を練る参考にして頂けるよう心がけました。ただ、JIMTOFに関しては動画を揃えるだけで力尽きたと言いますか(笑)、残念ながら遊び心を織り込むところまでは到達できませんでした。動画も長すぎて飽きさせてしまっていたかもしれません。今回は反省点が満載で、色々勉強させて頂いたと思っています」

牛尾 「ファナックでは毎年4月に大規模な自社技術展を山梨県の本社で開催されていますが、今回は中止になりましたね」

稲葉 「開催中止で、準備に心血を注いできた開発部隊は大変がっかりしました。その開発内容をデジタルコンテンツにして見て頂こうとの考えからDXCE開設に動き出したのですが、やってみるとデジタルならではの良さも数多く見えてきました。これからは、リアルとバーチャルの二本立てで展示会開催を進めていく方向になると思います」

牛尾 「日本工作機械工業会でも今後、常設のオンライン展示場を開設する方向で動くと聞きました。次回のJIMTOF2022もオンラインとリアルのハイブリッド展にする方向とか」

稲葉 「オンラインとリアルのいいとこ取りしたハイブリット展は、良い判断だと思います(全員うなずき)。リアル展を訪れた後でも、そこで見た機械や技術を再度確かめたい時にオンライン展示があると非常に便利です」

清水 「今回のJIMT

OFについては、是非、より多くの見学者からその評価について、アンケートを取って分析し、次回に生かして欲しい。WEBであれば、世界中からの見学者が期待できますので、海外の皆様に日本の工作機械を知って頂く、大きなビジネスチャンスになるかと思います。ところで、今回のJIMTOFでは、どの様な方が見学に来られたか、見学に来ても直ぐ出て行ってしまったかなどのブース滞在時間、どの様な機種の資料の閲覧が多かったかなど、色々な分析を行ないたいのではと思いますが、そのような情報が主催者から提供されるのですか」

中村 「当社の特設HPなどでは顔の見えるチャット機能なども作り、双方向のコミュニケーションがとりやすかったと思います。ウェビナーなどではより具体的な質問から興味の度合いや傾向を探ることもできました。JIMTOFサイトのページでも名刺交換機能で次の営業展開につなげやすい側面があったのですが、名刺交換については評判がよくない部分も。ちょっと強制的といいますか…」

稲葉 「全く面識のない方とメールアドレスを交換せざるを得ないのは、私も少し抵抗がありました。個人情報の扱い方は、今後の課題の一つでしょうね」


自律的に動く「高度自動化」へ

つないで、見えて、賢く動かす

牛尾 「今回展で発表された新技術と、全体的な技術トレンドについてはいかがでしょうか」

中村 「自動化のレベルが、あらゆる方向で進化しているように感じました。プログラミングも含めた段取り時間をいかに短くするか。多品種少量化が益々進み、刻々と変化する現場にフレキシブルに、かつスピーディに対応できる自動化技術とはどうあるべきなのか―最終的に我々もお客様も、目指すところはスマートファクトリだと思っているのですが、そこを目指してソフト・ハード共に様々な展開を進めているところです。今回展では工程集約の要となる複合加工の先端技術のほか、ワーク着脱用協働ロボットシステムを短時間でセットアップできる『Plug One(プラグワン)』、加工プログラム作成時間を大幅削減できるソフトウェア機能『3D Smart Pro AI』の進化も見て頂きました」

清水 「私も仰せの通りと思っております。お話のあった自動化は、段取、機上計測とそれに基づく補正など、そしてそこにAIを活用したより自律的な『高度自動化』として進化しております。さらには、工作機械、加工プロセス、ツーリングなどの『見える化』、そして今年は工程間を結合するためのハード的な『つなぐ化』技術がIoTに加わり、色々な進展が見られたように思います。これらの進展は、正に『スマートファクトリ化』につながっていると言えます」

稲葉 「清水先生がご指摘されたような、つないで、見えて、賢く動かすことは、当社の事業の大きなテーマでもあります。今後、機械加工が目指すべき自動化とは、単にローディング・アンローディングや工具交換などの作業をロボット化するだけに留まりません。現場が本当に必要としているのは『不良品を作らない』こと。そのため、機械加工精度の安定化に向けてAI技術を活用した機能の開発が既に始まっています」

 「機械加工の精度安定化に向けては、当社でもAI熱変位補正機能を既にリリースしておりますし、さらに加工後のワークを自動測定し、その値を加工機にフィードバックして補正をかける事により加工精度を安定させる技術の開発を進めています。今後は、つないで、見えて、機械が賢くなったらその知恵を機械加工精度の維持に使っていくという、新たな加工スタイルが定着するでしょう。さらに、これはまだ実現していない技術ですが、精度の他にもサイクルタイムの最適化、電力消費量の最適化など、目的に合わせ、ESGにも貢献できる各種機能を開発していく必要があると考えています」

中村留精密工業ではJIMTOFで、コンパクト超剛性複合加工機「SCシリーズ」で、ワーク着脱用協働ロボットシステムを短時間でセットアップできる「Plug One(プラグワン)」を組み合わせて紹介した

つながる技術は「実りある畑」

日本発のグローバルスタンダードに

清水 「つながる技術と言えば、昨年のEMOショーではVDW(ドイツ工作機械工業会)の推す工作機械の共通インターフェース『umati(ウマティ)』(※1)に注目が集まりましたね。日本側での対応はどうでしょうか」

稲葉 「欧州ではumatiが使われていくようになるとみています。こうした工作機械や工場の設備、上位の管理システムとの情報交換がスムーズに行える共通インターフェースや通信プロトコルの活用は、これからも非常に重要になってくるはずです。まだ道半ばではありますが、当社でもOPC︱UA対応やデータコンバーターなど現状での解決策の例を提案しており、今後も開発を加速させていきます」

牛尾 「現場のIoT活用に期待が大きい『FIELD system(フィールドシステム)』や、ファナック・富士通・NTTコミュニケーションの3社が共同で立ち上げたクラウドサービス『DUC(デジタルユーティリティクラウド)』については」

稲葉 「FIELD systemは、種類や年代、メーカを問わず、どんな機械のデータもスムーズにつなげられるオープンプラットフォームを目指してスタートしました。サードパーティやメーカ側の機能開発に時間がかかってはいますが、来年4月の当社の自社展(オンライン開催の予定)とEMOショーで具体的なソリューションを多数お見せできると思います。ユーザも徐々に増えてきているところです」

 「一方のDUCは、クラウド環境をベースにしたプラットフォーム。具体的には工作機械メーカとタイアップして各社に合ったリモートサービスを創出する事を目指しています。また、収集したデータをAIで検索・分析できるツールなど使いやすいソフトウェアのパッケージをパートナの工作機械メーカにご提供するべく準備を進めています。マルチクラウド・マルチエッジのオープンさも特長で、他のプラットフォームとのデータ連携にも柔軟に対応します」

牛尾「中堅・中小の多い工作機械メーカ各社が単独でクラウドのインフラ環境やAI活用のベースを構築するのはかなり難しいもの。共通利用できるDUCに期待が大きいですね」

稲葉 「そうですね。DUCは基本機能を富士通が開発し、最も重要視しているセキュリティ面はNTTコミュニケーションズが中心になってゼロトラスト(※2)と呼ばれる現時点での最高レベルのセキュリティ対策を講じています。DUCのサービス展開はまず、来年4月に日本でスタートし、21年度中に欧州、北米、アジアへと順次展開していく予定です。いずれにしろ、日本発信で一刻でも早くグローバル展開を進めなければ他国に後れを取ってしまうと思いますので、責任重大と思っております」

清水 「日本発のオープンな製造業向けプラットフォームがグローバルスタンダード化することに、非常に期待が大きいですね。そして、中小への普及に向けては、何を用意すればどんなことができて、どのくらい費用がかかるのか、素人でも分かりやすく説明してほしいと思います。また、日本の製造業のデジタル化は、一般に言われているほど遅れてはいませんが、乱立しがちなIoTプラットフォーム同士の連携を含め、データ活用のフレームができていないのが難点でしょう。IoTやクラウドの基盤さえ整えば、人に蓄積された技術を活かせる、現場に強い日本ならではの先進的な取組みが実現すると思います」

中村 「我々工作機械メーカにとって、IoTや自動化、つながる技術というのは、とても大きな実りが期待できる大事な畑。頭の中で理解したつもりになるのではなく、地に足をつけ、しっかり育てていかねばなりません。例えば当社の工場でも見える化や自動化を様々な方向から進めていますが、まだまだ人間の力に頼らざるを得ない部分は沢山あるわけでして。ここをいかに効率よく自動化するのか。自分たちがやってみて理解を深めるところから始めなければ、お客様に分かりやすくご説明することは難しいと思います」

牛尾 「今は大きな実りを期待しつつ、種を蒔き、育てる時期だと」

中村「はい。ただ、今まで着々と積み上げ、世界ナンバーワンレベルにまで達した日本の工作機械のハード面での技術開発の方向性が変わるわけではなく、むしろ逆に、機械の精度や剛性のレベルを、さらに数段上げる必要があるとも考えています。無人化が進み、人がいなくなった工場でも安定してきちんとしたワークを常に生産し続けなければならないのですからね。当社でもビッグデータやAIの活用、周辺機器の自動化などを進めつつ、ハードの性能進化もきっちり進めています」

牛尾 「開発に向けた課題は?」

中村「何より、スピードです。スマートファクトリ化というゴールは世界中のどのメーカも同じで、競争は益々激しくなりますから。『この分野の加工のスマート化なら、このメーカしかない』と名指しで選ばれるゴールへと、いかに早く駆け込めるかが勝負の分かれ目になるでしょう」

 「我々の加工機がさらに加工精度を上げ、そしてお客様の工場の自動化、スマートファクトリ化を推進できれば、お客様にもっと儲けて頂けるようになる。そのやりがいと責任感を若い人にもっと実感してほしいですし、機械単品ではなく自動化・スマート化まで提供できれば我々メーカ側の利益率も上がる。給与水準を上げることで優秀な若手の確保もしやすくなり、業界全体の活性化にもつながると考えています」


開発スピード加速へ、産学のコラボ

共通課題を大学が研究・評価

清水 「開発スピードの加速に向けては、企業間や産学のコラボレーションも重要。このコロナ禍でオンライン活用が進展した今、日本国内のみならず海外とも距離や時間の壁を越え、コラボできる可能性が広がりました。世界中の技術をウォッチングし、どの企業や大学とコラボすれば自社の製品が進化するのかを見抜ける目利きのような能力も必要です」

稲葉 「諸外国に負けないためにも日本は産学連携をもっと盛んにしていかねばならないと思います。大学においては工作機械や機械加工など、鉄と油と汗を感じさせる講座をもっと盛んにしてほしいですし、日工会としても、大学の知恵をお借りして、一歩進んだ技術の開発に挑んでいくべきと思います。特に期待しているのは工作機械での活用に特化したIoTやAI関連の技術です。清水先生はじめ熱心に取り組んでおられる先生方に頑張って頂いて、大学側で工作機械向けのAI機能の開発、そして深層学習に用いたビッグデータの扱い方等に関する道筋をつけてもらえれば、と期待しています。そのノウハウを日工会各社が使ってそれぞれ独自のAI機能を開発していければ、諸外国の工作機械メーカに対して一歩先を行く機能を実装できるのではないかと考えています」

清水 「まずは、産学連携のための土俵づくりが必要かと思います。例えば、私が在外研究していた米国ノースカロライナ州立大学では、ツーリング関連の企業が組合を作り、研究費を出資して、組合として大学側に対してやって貰いたい幾つかのテーマを提示し、それに興味がある大学に手を挙げて貰い、その選定は組合で行ないます。選定された大学はそのテーマを実施し、年間を通して、定期的にその進行状況を報告する発表会を開催します。年度末にはそのテーマの発表内容を組合側が審査し次年度も継続するかを審査しその結果を発表する会を開催するなど、産学で大変な盛り上がりを見せており、学生も生き生きと研究をしておりました。このような仕組みは、産業界が必要としている研究テーマを大学側が把握でき、研究者にとっても大いに勉強になり、産業界もそれらの成果を共有出来ることから大変素晴らしい仕組みであると感じました。是非、日工会が中心になって、このような仕組みを構築して欲しいと思います」

中村 「工作機械メーカは一方でコンペチタ―同士ですから、すぐに必要になる技術領域の開発は産学連携と言うより、個別企業と大学が機密保持契約を結ぶ共同研究のほうが望ましいかもしれませんね。逆に、各社が共通して対応しなければならない分野や10年先に必要になる技術基盤の研究などでは、業界を挙げた産学連携の必要性が高くなるでしょう」

清水 「先日、旋盤用タレット刃物台に付く、工具保持具のインターフェース部のISO規格化の新規提案がドイツからなされ、日工会の委員会でその対応について議論がされていました。この基礎研究は、ドイツでの産学連携の成果を元にしており、以前のHSKと全く同じ構図です。日本では、このインターフェースが各社バラバラで乱立状態ですが、ドイツは、この統一化に動いております。このような共通課題は多くあり、例えば、いつも話題になる新構造材料の工作機械への適用技術などは、効果的なテーマです。大学で、その基礎研究と評価を行なえば、スピーディに日本に取って優位な環境を構築できます。これで、ある程度その有効性が掴めれば、国からの研究予算も獲得しやすくなるかと思います」

中村 「なるほど。自動化についても、接続部分の共通化やデータ通信規格の統一がさらに必要になりそうです。ユーザは様々な種類の機械をもっておられるわけですから、データ形式や言語、接続部がバラバラな現状では、工場内の設備機器をつなぐのに非常に大きな労力が必要。このあたりは各社共通の課題と言えるでしょうね」

清水 「データ通信規格の関連では、先ほどumatiの話もありましたが、今までMT Conectが重要視されてきた経緯もある。業界統一規格としてどちらを選ぶのか、業界の皆さんが今まさに困っている部分だと思うのですが、選定に向けた技術評価にしても、双方を使う前提でデータを互換できるインターフェースを開発するにしても、大学の専門家に任せる手もあるのではないでしょうか」

中村 「規格を統一することで、要素技術の仕入れが偏ってしまう問題もありますから一朝一夕に答えが出しにくい面も。ただ、業界の意見をまとめ上げていく努力の必要性は高いでしょうね」

稲葉 「同感です。ロングレンジでみた将来的に業界で普遍的に必要となる技術の開発については、日工会だけではなく、RRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)の事業のように経済産業省や日機連(日本機械連合会)にも参画してもらうのが、資金や人財の面を考えても必要ではないかと思います。特にAIやIoTなどのテーマは経産省も重点をおいている分野ですから、予算を確保しやすいかもしれませんね」

精度安定化の追求が差別化の土台に

工作機械の本質(ハード)への回帰が始まる

牛尾 「最後に今後の技術開発や戦略展望を」

中村 「当社の強みである複合化技術の進化により工程集約を進め、多品種少量生産への対応力を一層高めるのはもちろん、今後はまるで人間ドックのように、機械が各部を自己診断して、必要なメンテナンスを予知し、メール通知できるような機能の実装を考えています。将来的なスマートファクトリでは素材発注から生産計画立案、生産管理に至るまですべてが自動化され最適化するのでしょうが、その前提として機械が常に安定して動くことが最も重要ですから。さらに、加工精度についても超精密の一歩手前までレベルを上げ、経時変化のない安定加工を常に実現できるようにしていきたいと考えています」

稲葉 「工作機械は今後、単品で使われていくことが益々少なくなっていくでしょう。消費財マーケットの多様化を受け、すでに生産ラインのトレンドは、複数の工作機械やロボットのセルをフレキシブルに組み合わせて変種変量生産に対応する方向へと変わりつつあります。究極的には単品流しのマスカスタマイゼーションの対応までも求められるようになってくるでしょうが、そうした次代の生産形態に柔軟に対応できる工作機械の条件として、最も重要なのは、やはり工作機械の本質である高耐久性と高安定性だと思います。究極的にはメンテナンスフリーで、要求スペックが常に自律的に保たれる加工システムの実現が今後、求められると考えています」

清水 「お二人の今回のお話を伺っていて、ソフトウェアの進化やAI活用の道を追求した結果、ハードの追求へと回帰し、新たな進化の道を切り拓いているような印象を受けました。今回のJIMTOFでもハイレベルな機上計測や自動補正技術が多数披露されていたのが非常に素晴らしいと感じたのですが、その進化の背景には長い時間をかけて信頼を深めてきた日本の工作機械のハードの性能の確かさがある。そしてさらに、各社が工作機械の剛性や運動精度、熱特性を三次元測定機に近いレベルにまで高められたからこそ、機上計測の結果がばらつかず、補正が正しく機能し、加工精度を高められるわけです。これは日本の工作機械だからできる差別化技術。新興国が技術のキャッチアップの速度をどんどん上げる中にあっても、これが日本の重要な強みになっていくでしょうね」

 「また、私はずっと『個の量産』(マスカスタマイゼーション)に対応する加工機の条件を考え続けてきたのですが、複合化技術がどんどん進み、それを並べてフレキシブルに変更できるダイナミックセルを作るだけで真に効率の良い生産形態が実現するわけではないのでは?とも感じています。例えば欧州では量産向けと位置付けられてきたロータリートランスファーマシンが、変種変量生産、極少量生産にまで対応できる構造形態へと徐々に進化してきました。1つの機械システムとして個の量産の時代に対応できる技術開発が日本でも必要とされていくと思います」

牛尾 「本日はありがとうございました」


(※1)umati︱工作機械が発するデータを収集するためのインターフェース規格。工作機械側の世代やメーカの違いを問わず上位システムとの通信を可能にする。ドイツ政府が進めるIndustry 4.0が推奨する通信プロトコル「OPC UA」をベースにしている。

(※2)ゼロトラスト―企業の外部からの攻撃だけではなく、企業内の端末からアプリケーション、働いている従業員に至るまで、ありとあらゆる内部の物事についても脅威の可能性となる対象として捉え、起こり得る最悪の事態を想定した情報漏洩への対策方法を講じること