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設備から見た働き方改革

工場全体を効率的に排気する屋上換気扇「ルーフファン」

2019年に「働き方改革関連法」が施行されて以降、長時間労働の是正に向けた動きが進んでいる。生産年齢人口の減少が予想される日本にとって、生産性と定着率の向上につながる環境整備が一層急務になっている。しかし、働き方改革と言っても、現場の数だけ答えがあるため、「どういったケースが直接的な改善につながるのか」と迷ってしまうケースも少なくない。そこで現場改善と安心・安全につながる設備(製品)にスポットを当てた。


換気による現場改善

暑さ対策以外の効果も


目に見えないモノをコントロールして、現場を快適にする。気温、湿度、音、振動、臭いなどがそうだ。法規制などによって一定の基準は設けられているものの、環境や作業内容に適した設備を導入したいところ。しかし、影響する範囲が広く、設備も大規模になれば、最適解を出すのに相当な時間を要する。

そういった状況を考慮し、鎌倉製作所が「換気」をキーワードにした提案に力を入れている。10月下旬、2年ぶりに実機見学会を3日間実施。肌寒くなる時期ながら、涼風効果も含めた換気の重要性について紹介した。

営業企画課の古住亜香里氏は、その狙いについて「来年の酷暑対策を今から検討していただくため」と説明する。累計100万台の販売実績を誇る屋上換気扇「ルーフファン」などの換気・空調設備は、予算規模が比較的大きいため、季節に関係なく、長期間検討するケースが少なくないからだ。

「スポットクーラーや工場扇に比べて価格が一桁違う。気温が急激に上がったからといってすぐには導入しにくい。気化熱を利用する涼風給気装置『クールルーフファン』を併用して全体を冷やしたり、大型強力送風機『ブルージェットファン』で熱気を天井に逃がしたりと、組み合わせによって、さらに効率が高まるだけに、じっくり検討いただきたいという思いもある」(古住氏)

現場の状況や課題によって対策も変わる。工場全体を外気温(+2℃程度)まで下げたい場合は、排気と給気の効率化が求められるし、換気扇の設置場所を壁面にせざるを得ないこともある。

こうした換気のコツや現場に制約がある場合の対処方法を、実機見学会では、実際に設置された換気装置・送風機を運転させ体験してもらう。参加者は換気の威力や風の強さ、涼風効果や気流などを実際に体験することで、「自社の現場に何がマッチングするのかを具体的にイメージすることができる」というわけだ。今後、コロナ禍で見合わせていた地方の小ホールなどを使用したイベント開催を順次検討するという。

さらに、古住氏は「換気は暑さ対策以外にも効果がある」として、溶接ヒューム対策、結露改善などを挙げた。冬場に発生しやすい結露は、外気温と内気温の差により発生することから「換気の仕方によって十分改善できる」とした。

■通年で冷やす現場も

通年で酷暑対策が必要な現場もある。鉄鋼業や食品製造業のように「炉」「釜」を使用する工程だ。さらに細かく表現すれば、換気が利かず、汗も蒸発できない作業とも言える。

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チラーでつくった冷水をウェア内で循環させる身体冷却システム「COOLEXシリーズ」

そこで鎌倉製作所は身体冷却システム「COOLEXシリーズ」を提案している。チラーでつくった冷水(7~20℃)をウェア内で循環させるというもの。換気でカバーしきれない部分的なエリアでも活躍する製品として、塗装、溶断向けでも引き合いを伸ばしている。

ラインナップとして、防塵・防水、バックパック、キャリーのほか、最大10人を同時に冷却できるオーダータイプも用意。フォークリフト用クーラーも今年5月に発売した。日帰り体験(無料)、1週間体験(2万円・送料返送料込み)を活用しながら、認知度を高める取り組みにも力を入れている。


手軽なウイルス対策

1パスで99.9%除去


目に見えないモノで最も関心が高いのは「ウイルス」だろう。人の往来や滞留が避けられない場所、人との接触を前提としたビジネスは、これまで当たり前だった「安心・安全」を強化し、目に見えるカタチで示さなければ始まらない状況になっている。

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「エアーリア」は、簡単に設置や移動ができる床置き仕様。100Vコンセントで稼働する

そういった要望に応える製品として、急激に実績を上げているのが岩崎電気の空気循環式紫外線清浄機「エアーリア」だ。光環境営業部の阿部卓也部長は「2020年は前年比で約100倍(数量ベース)の受注があった」と話す。

エアーリアは、室内の空気を取り入れて紫外線ランプで菌を抑制し、菌やウイルスを除菌した清潔な空気を送り出す仕組み。紫外線は、目や皮膚に直接照射されない構造になっているため、有人環境下でも安全に使用できる。

納入先は、医療機関、大型ショッピングセンター、スーパーマーケット、飲食店、高齢者介護施設、社員食堂、コールセンターなど。100V電源で使える手軽さと、簡単に設置や移動ができる床置き仕様のメリットも相まって、事業の規模や形態を問わずに、通年で引き合いを伸ばしている。

岩崎電気は、1980年代から食品業界を中心に培ってきた紫外線による表面殺菌技術を生かし、2005年にエアーリアを製品化した。阿部部長によれば発売以降、「インフルエンザが猛威を奮う冬だけ一時的に売れていた」状況から、コロナ禍によって感染症対策市場が一変したという。

ニーズの多様化を受けて岩崎電気は、風量1立方㍍(毎分/15ワットタイプ)の標準タイプを中心に、コンパクトタイプ、大風量タイプなどを相次いで製品化した。ランニングコストはいずれも小型照明器具程度。1パスで浮遊菌や落下菌を999%以上除去できるという。

その効果は(一財)北里環境科学センターでも実証済み。新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)の不活性化についても、岩崎電気の紫外線ランプを使用して、広島大学病院の大毛宏喜教授(感染症科)などと共同で評価試験を行った結果、高い有効性があることが確認された。

「『目に見えないモノは防ぎようがない』と思われている状況を、安心に変えるためにもエビデンス(根拠)は重要。稼働停止が不安につながらないように、寿命とメンテナンス性にも配慮した」

紫外線ランプの寿命は約8千時間。1日中稼働させたままでも、1年間は使い続けられる計算だ。交換も購入者自身ができる構造になっている。

阿部部長は、「SARSMERS、新型コロナウイルスと、危険なウイルスが増えてきている。経口薬が出始めても、予断を許さない状況は今後も続く。今年に入って、オフィスの会議室、工場の社員食堂などの受注が増えてきた。コロナ禍によってウイルス対策がスタンダードになるだろう」とした。


荷役作業を安全に

広い天場で効率アップ


現場の数だけ危険が潜んでいる。慎重を要する作業よりも、「慣れている」「当たり前」な行動にこそ、意外な落とし穴がある。労働災害(休業4日以上)のうち、墜落・転落が約2割を占めているのは、その理由を示す事象といっていいだろう。

トラックの荷役作業も事故が起こりやすい典型の一つだ。重量物の搬送、限られた時間での入出荷、無理な姿勢、不安定な足場などが原因として考えられる。やや古いデータにはなるが、荷役作業における労働災害の現状は、厚生労働省が20135月に発表した「荷役作業安全ガイドライン」に詳しい。

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トラックのあおり部分に取り付けて、昇降をサポートする「DXF-TE」

調査対象は陸運業。無作為に抽出した労働災害1000件の755%が荷役作業中に発生した事故だ。そのうち墜落・転落事故は約3割。その大部分は荷台で起こっている。

ガイドラインは、合わせて荷主、配送先、元請事業者などに対して、陸運事業者の荷役作業の安全確保に協力することを求めている。その点に着目して、13年から作業台を中心にトラック関連製品を揃えたのがピカコーポレイションだ。

商品部の島田勉チーフは「荷主側だけではなく、荷受側である物流センターや工場からも引き合いが増えている」と話す。

搬入口付近にキャスター付作業台や昇降ステップを常設し、トラックが到着次第、荷台に横付けさせるケースが多いそうだ。広い天場を確保することで、安全性だけでなく作業効率も高める。そういった相乗効果は、荷台の「あおり」に立って不安定な姿勢のまま作業することが当たり前になっていたことも関係している。

「荷台は微妙な高さなので、飛び乗ったり、飛び降りたり、足をかけたりといったことができてしまう。しかし、狭い足場と不安定な姿勢は、怪我だけでなく、荷を潰すことにもなりかねない。あおりに立ってシートを付け外しするのは、最も危険な作業といえる」(島田チーフ)

■エイジフレンドリー実現へ

労働災害の発生を受けて対策するケースが増えるなか、保管・設置スペースに余裕のある大型施設では、2台連結で長さ4.5mの足場を確保できる作業台「DXL」の引き合いが堅調に推移しているという。一方、小口の配送が多い運送業は、あおり部分に取り付けて、荷台の昇降をサポートする昇降ステップ「DXF―TE」が好調だ。

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大型作業台「DXL」は、2台連結すれば、約4.5mの足場を確保できる

ピカコーポレイションは、安全性と作業効率の向上という利点を「エイジフレンドリー」に結び付けて提案しているところ。エイジフレンドリーとは、高齢者の特性に配慮した職場を構築すること。少子高齢化で労働力の確保が難しくなる日本にとって、年々重要性が高まっているキーワードだ。

20年から開始された「エイジフレンドリー補助金」(21年度分の申請は10月末まで)の対象設備には、トラック荷台などの昇降設備も含まれている。島田チーフは、「中小企業で高齢者(60歳以上)を常時1人以上雇用していることが条件になっているので、導入のハードルが比較的低い。それに高齢者対策は、すべての人が安全に働けることにつながるので、波及効果も大きい」と話していた。


切断中の事故防止

機械前後にセンサ搭載


労働災害では、転倒、墜落・転落、動作の反動・無理な動作に次いで、「はさまれ・巻き込まれ」による事故も毎年1万人以上発生している。不用意な動作、誤った操作などが原因とあって、工作機械メーカーも安全対策に余念がない。シャーリングブレーキとプレスブレーキの専業メーカーである相澤鐵工所もそうだ。

安全を意識したシステムを具現化した製品として、メカニカルシャー「AST-1013H」がある。実際に作業する前面部にセーフティガードを設置。切断部分に作業者の身体が入らないようにした。光カーテンも装備させ、作業者が誤って手などを入れてしまったときに、電磁ロックが作動する仕様とした。

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メカニカルシャー「AST-1013H」

後部には安全柵を設けた。こちらにもセンサが取り付けられており、機械後部に人が入ったときには、アラートが点灯し、電磁ロックが作動する。

作業者ファーストを重視しながら、自動車の軽量化に伴う材料の進化に対応するため、加工能力も大幅に高めた。厚板10ミリ13ミリ向けの切断機では従来にない高速化を可能にしたほか、SPMは同社機比170%、バックゲージの移動速度は500%を実現している。そのほかにも、リターン機能、短冊切断時に発生する製品の反りやねじれを軽減する機構も搭載した。