日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

特集

2022年版「中小企業白書」を読む

キーワードは「事業再構築&自己変革力」

今年426日に閣議決定した2022年版「中小企業白書」は、感染症の流行や原油・原材料の高騰といった厳しい事業環境に直面する中小企業の実態を捉えながら、感染症を乗り越え企業の成長を手中にするための方策として、特に「事業再構築」「自己変革力」に着目してまとめている。
700ページ及ぶ同白書のポイントを、図表を引きながらかいつまんで読み込んだ。


感染症下の再構築


近年の「中小企業白書」を振り返ると、新型コロナ感染症が蔓延する前は、地域経済を支えるキープレイヤーである中小企業がいかに経営力強化を図り、成長の機会をものにしていくかを、複眼的に考察する内容となっていた。「世代交代」、「自己変革」、「差別化」、「新事業展開」、「稼ぐ力」といった課題への対応策、その事例、支援状況などが綴られた。

対して昨21年度版は、コロナ感染症の影響を分析しながら「危機を乗り越え、再び成長軌道へ」というテーマを白書の中に掲げた。そうして先ず、変化に合わせて経営戦略の見直しに取り組むことの重要性を述べた。

このように過去の白書を振り返ると、中小企業に対する白書の視座が一定程度、定まっていることが改めて感じられる。自己変革、新規チャレンジなどの必要性を毎回必ず説いてきた。

今回22年度版白書の内容も、事業者の「自己変革」をテーマに、ウイズコロナで、あるいはアフターコロナで必要な取り組みを取り上げている。ひと言でいえば、感染症下の事業再構築の必要性を強く説いたものといえるだろう。

なお中小企業白書は、毎年度、まとめた内容が4月下旬頃閣議決定となる。今年もそうであり、この工程面から白書が考察し提言する多くは昨年の状況をベースとしたものとなっている。各種調査結果はじめ参考資料などは年明け2月頃のものが最も新しく、それ以降の状況は反映されていない。原油原材料高、急激な円安、またウクライナ問題の深刻化などに関しては、つい最近の変化が激しかったぶん、白書の内容と現実にギャップがあることを否定できない。本紙のこの記事「中小企業白書を読む」では、足下の状況を補完的に書き足すといったことはしないが、最新の状況を胸の内で照らし合わせながら、白書が書く「本質部」に触れたい。


中小、依然厳しい状況


中小企業の業況については、業況判断ID202046月期にリーマンショック時の下回る水準まで急激に悪化し、その後一定程度急回復(グラフ1)した。設備投資も増加に転じている。しかし白書は総論的に捉えて「足下では持ち直しの動きも見られるが、依然として厳しい状況」と述べている。

グラフ1.jpg

新型コロナウイルス感染症の影響については、ある調査で74%が「影響は継続している」と回答(20222月調査)しており、白書は関連して「新型コロナウイルス関連破たんの件数は219月から4カ月連続で月別件数として過去最高を更新するなど増加傾向にある」と記した(グラフ2)。

グラフ2.jpg
中小企業の資金繰りに絡んでも懸念がみえる。持続化給付金や家賃支援給付金による支援をはじめ、金融機関においても実質無利子・無担保融資制度を活用しながら積極的な融資が行われ、貸出残高が増加しているが、その分、宿泊業をはじめ各業種で借入金月商倍率が上昇した。白書は「借入金の返済余力が低下している可能性がうかがえる」、「返済余力が低下している業種もある中で、今後の倒産件数や休廃業・解散件数の動向に留意する必要がある」などと記した。

さらに白書は、人手不足の状況や外国人労働者数の足下での減少を分析、原油原材料高の影響などとともに重くみた。また地域によってシャッター通りなどと呼ばれる商店街問題も取り上げ、実態調査で来街者数が減ったとの回答が全体のほぼ7割を占めている現実を考察した(グラフ3)。

グラフ3.jpg


事業再構築の実施と効果


昨年12月の調査で、中小企業の経営者に「今後の不安要素」を聞くと、「原材料価格・燃料コストの高騰」が一年前の同調査から50%ポイント以上も増え、67%に達していた。また「人材不足・育成難」を挙げる企業の割合も上昇していた(以上グラフ4)。不安要素はほかにも多いが、そうしたなかで事業再構築の必要性が高まっていると白書は捉えた。

グラフ4.jpg

ここで「事業再構築」とは、新たな商品の提供や商品の提供方法を変更するといったことを指す。「事業再構築」を実施しているかどうかとの中小企業への問い(昨年12月)では、感染症の影響の大きい宿泊業・飲食サービス業で実施割合が高いことが分かった。

白書が注目したのは、事業再構築を行った企業の多くで売上面の効果が出ていたことだった。「売上面で効果が出ている」ないし「売上面で効果が見込める」と回答した企業は6割前後に達し、それも事業再構築の実施時期が早いほど売上に効果が出ている企業が多いという結果だった。さらに事業再構築に取り組む企業は、売上げ面の効果だけでなく、既存事業とのシナジー効果も実感していることが調査で分かった(グラフ5)。新規開拓した販路の既存事業への活用等で効果を上げるケース等があったとみている。白書は、事業再構築の実施を検討することの重要性について、事例を交えながら記している。

グラフ5.jpg


自己変革力ブランド構築の有効性など検証


白書はまた、「自己変革力」という視点から企業の成長を促す経営力と組織について分析した。

そうしたなか今回着目した一つが「無形資産投資」だった。これは人的資本、研究開発、IT・ソフトウェアなどへの投資を指すが、近年は有形資産投資と比べて生産性をより向上させるとの専門家らの分析結果も多い。

その無形資産投資に関し、さらに絞りこんで「ブランド構築(投資)」と「人的資本への投資」について考察した。

ブランド構築については「オリジナルの付加価値を有し、適正価格をつけられる価格決定力を持つことが考えられる」と仮説的に記し、各種調査から検証した。

その一つが(グラフ6)。これは企業のブランドが取引価格の引上げ・維持に寄与しているかどうか聞いたものだが、ブランド構築に取り組んでいる企業の約56%が「大いに寄与している」ないし「ある程度寄与している」と回答したのに対し、取り組んでいない企業は同割合が17%程度に過ぎなかった。

グラフ6.jpg

他方、ブランドの構築・維持のための活動では、自社ブランドの発信だけでなく、ブランドコンセプトの明確化や従業員への浸透などを行うことも必要ということが別の問いで浮き彫りになった(グラフ7)。

グラフ7.jpg

無形投資資産として「人的資本への投資」についても、白書は詳細に分析した。

まず経営者の経営課題として「人材」が圧倒的に重視されていることを調査結果から引き(グラフ8)、人材の能力開発に積極的な企業・職場ほど従業員の働く意欲が高い、また計画的なOJT研修・OFF-JT研修を行っている企業ほど売上高増加率が高い傾向といった現実を分析した。このくだりでは、従業員だけではなく、経営者が学習時間を意図的に確保している企業のほうが売上高増加率の水準が高い傾向というユニークな調査結果も引用している。白書は、研修を充実させることで従業員が工夫をし、従業員が新規事業を発案するなどして業績を急回復させた事例を掲載した。

新グラフ8.jpg

他方、変革力という観点からは、外部環境への対応も中小企業に問われる。白書は「越境EC」、「グリーン・脱炭素」また諸外国と比べいかにも低調な日本の「起業=スタートアップ」について状況を整理し課題などを記している。


共通基盤としての「取引適正化」と「デジタル化」


白書は、中小企業の動向を記した冒頭部で、原油高等に対する価格転嫁が、中小企業において遅れている(昨年12月調査では「まったく転嫁できていない」がほぼ7割)状況に触れたが、自己変革力をテーマにしたくだりでも、価格転嫁の遅れに触れ「販売先との交渉の機会を設けることが重要」などと記した。交渉の機会がないため価格転嫁を図れていないケースは少なくなく、かねてからの課題である「取引適正化」に絡めて是正をうながした。

「エネルギー価格・原材料価格の高騰への対応だけでなく、中小企業における賃上げといった分配の原資を確保する上でも、取引適正化は重要」と記している。

また、「パートナーシップ構築宣言」(企業が発注者の立場で自社の取引方針を宣言する取り組み。サプライチェーン全体の共存経営、付加価値向上、新たな連携を目指す)の策定企業が1万社近くまで増えるなか、白書は宣言(策定)を行った企業の取り組み状況を分析。(宣言・策定を行っても、調達担当など社内への)周知が遅れているケースもあるなどと指摘した。

他方、将来にわたる共通基盤としてはデジタル化のテーマも重みを増している。白書はデジタル化の取組み段階を1~44が最高レベル)に分けて状況を整理。デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる最高レベルの企業が約10%あった一方、紙や口頭による業務が中心のレベル1段階の事業者も82%と依然存在する現実を厳しく見た(以上、下の図参照)。

 白書は「取組み段階が進展するにつれて、営業力・販売力の維持強化をはじめとする個々の効果を実感する事業者の割合は高くなる」とし、デジタル化の進展に取組み、最終的にはビジネスモデルの変革(DX)や、新たなビジネスモデルの確立につなげることが重要と結んだ。

今回の中小企業白書は、これまで見てきたように事業再構築・自己変革の重要性を強調した内容になった。そうしたなか、白書は最終まとめにあたり、「再構築伴走支援」という言葉で、【併走支援】の有効性・必要性を強調している。

企業が自己変革を進めるなかでは様々な障壁に直面する(白書では5つの障壁を明記)ことになるが、この壁を乗り越える上では、第3者である支援者・支援機関が、経営者らとの信頼関係を築き、対話を重視した併走支援を行うことが有効とする意見だ。支援者の併走支援によって経営力を向上させた象徴例を掲載している。

改正グラフ8.jpg

(2022年5月25日号掲載)