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CAD/CAM市場、2027年世界で1兆5000億円規模

コロナ禍、クラウド型への移行が加速

ダッソーシステムズのCATIAクラウド版

モノづくりに欠かせない設計および加工プログラムを生み出すCAD/CAM。不況や感染症の影響による設備投資意欲の減少も相まって一時的に市場規模は縮小したが、感染症の収束とともに再び成長軌道に乗ると見られている。コロナ禍を経てクラウド型サービスへのシフトが進む中、改めてオンプレミス型も見直されている傾向にあるようだ。


矢野経済研究所の調査による日本国内のCAD/CAM/CAEシステム市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、2019年度は前年度比52%増の3958億円と好調に推移した。

2019年は好調だった2018年から一転し、米中摩擦が顕在化したことによる工作機械の受注減が顕著であった。だが、多くのCAD/CAM関連メーカーが「工作機械の好調からやや遅れて売り上げが伸長する」という言葉通りの結果となった。

また前年までの好調を受け、多くの企業の収益が過去最高を記録するなかで、設備投資も堅調だったことも好調の要因として挙げられる。一方、201910月の消費税増税を契機に伸びが鈍化していることも伺える。

2020年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、CAD/CAM/CAE市場の伸びも鈍化。メーカー出荷金額ベースでは前年度比3.1%増の4081億円になると見通している。これは2020年度の設備投資は、新型コロナウイルス感染拡大前に決定し実行されるため、成長は減速するがかろうじてプラス成長を維持した結果と言えよう。

企業収益が悪化し設備投資額が減少する影響は2021年度以降に現れる見込みで、2021年度のCAD/CAM/CAE市場は、前年度比でマイナス1520%程度と大きく下落すると見通している。

一方で2021年に入り、景況感に大きな変化が現れている。いち早く回復の兆しを見せた中国をはじめ、東アジアの工作機械需要が回復。3月には「受注の好不況ライン」と言われる1000億円を超える1055億円の受注を記録。さらに4月には28カ月ぶりに内需が前年同月比プラスに転じ、18カ月ぶりに400億円台の受注を記録した。

日工会は年初に2021年の受注額を12000億円と予想したが、6月時点においてすでに受注額7000億円を超えた。同会の稲葉善治会長も「内需、外需ともに着実な回復が続いている」と語るなど、見通しは明るい。

これらの影響がCAD/CAM市場に拡大するまでに多少のタイムラグはあろうが、確実な需要増のサイクルに突入すると見て良いだろう。


世界規模でのCAD需要をリサーチしている米グローバル・インダストリー・アナリストによる分析でも、世界の3DCADソフトウェア市場は、2020年から2027年に年平均成長率5.7%の水準で推移すると見通している。市場規模も2020年の93億ドルから、2027年には138億ドル(約15000億円=1ドル110円換算)に達すると予測している。


欧米系大手CADベンダーの動向


コロナ禍はCAD/CAM市場にも変化を与えている。従来のオンプレミス型から、クラウド型への移行が欧米を中心に加速している。設計者や技術者はクラウド上のCAD/CAMシステムで設計作業を行い、オンラインで打ち合わせや仕様変更を行うといったスタイルに変わりつつある。

特に欧米系のソフトベンダーはクラウド型のCAD/CAMサービスへのシフトを鮮明にしている。ダッソーシステムズは、CATIASIMULIADELMIAENOVIAの統合プラットフォーム「CATIA3Dエクスペリエンスon theクラウド」とSOLIDWORKSのクラウド版「3DエクスペリエンスWORKS」を設計者向けに用意。前者はサーバーから必要な機能を取り出して使えるほか、設計(CATIA)から解析(SIMULIA)へ効率的なデータ移行を実現する。

後者は設計者の使い勝手を考慮し「SOLIDWORKS 3DCreator」と「SOLIDWORKS3DScilptor」を用意。通常のSOLIDWORKSとシームレスな連携を可能にしている。

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オフラインでも使えるSOLIDWORKSのクラウド版

amazonのクラウドサービスAWSを活用し、いちはやくクラウド化を進めたシーメンスは「NXクラウド」と「SolidEdge」クラウド版を提案。後者はインターネット接続が切れた状態でも編集できるほか、SolidEdgeポータルを用いてプロジェクト毎のデータ管理を可能にした。また各種オンラインストレージにデータを格納できるのも大きなポイントだ。

そのほか、iOSAndroid端末にも対応するAutoDeskの「Fusion360」やPTCの「Creo」もクラウド版を上市している。


メリットも多いオンプレミス型


こうした一方、日本におけるCAD/CAMはいまだにオンプレミス主体の運用が大半でクラウド化がなかなか進んでいないのが現状だ。大手リサーチ会社のガートナージャパンの調査によると、日本におけるクラウド利用率は2015年から毎年1%程度しか伸びず、20201月時点で18%にとどまっている。

普及が進まない理由はさまざま。クラウド型サービスは、オンプレミス型に比べて柔軟性が低くカスタマイズしにくい点、セキュリティ面、ネットワーク障害などといった外的要因への不安などが挙げられる。

またクラウド型サービスはサブスクリプション契約が基本となっており、固定費の増加を嫌うユーザーも少なくない。オンプレミス型のソフトを使用する場合、ひとつのライセンスを長く使っていくうちに投資コストは下がっていく。積極的な設備投資に踏み切れない中小企業からすれば、クラウド型よりオンプレミス型のほうが恩恵を感じるだろう。

しかし、長引くコロナ禍や今後の製造業に要求される複雑化、高付加価値化、DXへのシフトチェンジを考慮した場合、シームレスに情報を繋げるクラウド型のメリットも計り知れない。

いずれにせよ、自社のモノづくりと需要層を十分に考慮したうえで、最適なCAD/CAMツールを選択すべきであろう。

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国内製造業ではオンプレミス型が主流