日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

特集

タイ、変貌する「アジアのデトロイト」

EV生産で中国が存在感

上海汽車が手がけるMG「ZSEV」

タイは世界11位の自動車生産国であり、ASEAN域内における最大の自動車生産国でもる。その先鞭をつけてきたのが日系自動車メーカーであり、同国内でのシェアは8割を超える。しかし、世界全体がEVにシフトしていくなか、タイでも中国系メーカーやスタートアップ企業などが存在感を高めつつある。


タイ政府は、20203月「タイランドスマートモビリティ3030」を発表。これは2025年までにEV生産台数25万台、2030年までに75万台の生産を目標とし、自動車生産台数の約30%EVとする計画であり、自国をASEAN地域におけるEV生産のハブとしてEV車の輸出拡大を図っていくものだ。

同年11月、タイ投資委員会(BOI)は、EVEV関連部品のタイでの生産を促す投資奨励策を発表。投資額50億バーツ(約175億円)以上のバッテリー駆動EVBEV)生産に対しては8年間、プラグインハイブリッド車(PHEV)の生産に対しては5年間、法人税を免除するもの。

タイ.jpg

タイのEVの新規登録台数(左)とタイの車種別新規EV登録台数(2021年)

また、投資額50億バーツ未満の場合は、BEVPHEVともに免税期間は3年間となるが、2022年までに生産を開始、 3年以内に10万台以上生産するなどの条件を満たせば免税期間は延長される。 EV関連部品については8年間の法人税免除に加え、タイ国内でのEVバッテリー生産を促進するため、バッテリー材料は原材料の輸入関税を2年間 90%免除するとしている。

こうした施策に積極的に反応しているのが中国系自動車メーカーだ。2013年にタイ大手財閥CPグループと合弁企業を設立した上海汽車は、傘下のMGブランドをタイで生産・販売しているが、近年ではPHEVの生産にも着手。中国から輸入した自社BEVとともに市場投入し、タイにおけるBEV販売でトップシェアを記録している。

タイ02.jpg2020年に設立した長城汽車タイ法人は、ラヨーン県のGM工場を買収。最新設備を導入し2021年から生産を開始している。現在はピックアップとSUV中心の生産だが、今後3年間に9車種を市場投入するとしており、その大半はBEVPHEVといったモデルにする計画という。

こうした中国系自動車メーカーの進出に伴い、2019年以降、中国系自動車関連メーカーからの大型投資(20億バーツ=70億円以上)案件も相次いでおり、今後日系自動車関連メーカーにとって大きな脅威となる可能性も否定できない。

■他業種からプレイヤーも続々と

異業種からのEVへ参入する動きも活発化している。2006年に設立された現地企業エナジーアブソリュートは、元証券会社社長でCEOSomphote氏は「タイのイーロン・マスク」と呼ばれる実業家。バイオディーゼル燃料や太陽光発電、風力発電といったクリーンエネルギー事業で急成長を遂げている。

2017年にはEV充電ステーション事業を立ち上げ、民間企業として最大となる1000カ所の整備に投資すると発表。さらに2018年には台湾のバッテリー関連企業を買収し、タイで世界最大級のバッテリー工場を建設すると発表している。また2019年にはバンコクモーターショーで自社開発EVのプロトタイプを発表し、すでにタクシー会社から3500台を受注している。

タイ国営石油企業のPTTと台湾のフォックスコン(鴻海グループ)は20215月にEVおよびEV部品生産における提携を発表。9月にはEV生産の合弁会社を設立、2023―2024年にかけて年産5万台規模の生産を開始し、将来的には15万台の生産を目指すとしている。フォックスコンはEVにプラットフォームやアプリケーションの開発、バッテリーなどの部品生産を請け負い、PTTは組み立てやサービスといった領域を担う。

このような流れは車両製造にとどまらず、充電設備やバッテリーなどの部品製造でも見られ、今後は周辺分野を含めた競争が激化していくものと思われる。

こうした動きに対して、これまで絶対的な優位を保ってきた日系メーカーも安穏とはしていられない状況となりつつある。

2.jpg

タイ市場に投入されるトヨタの新EV「bZ4X」

タイにおけるシェア3割超を獲得しているトヨタタイ法人。「カローラクロス」をはじめハイブリッド、プラグインハイブリッドが好調な売れ行きをキープしているが、今後は電動化にも注力する構えを見せている。年内にもにも新型EVbZ4X」を市場投入するとともに、タイを複数の電動化車両の主要生産拠点とするため、さらなる現地化を検討していくと発表している。

また、三菱自動車のタイ法人は2020年より「アウトランダーPHEV」の現地生産を開始。同社の小糸栄偉知社長は「充電インフラの整備等、BEV普及には時間がかかる。そうした点で当社のPHEVがタイ国内や周辺諸国でも大きな強みを発揮できる」と語る。

3.jpg

現地生産で市場でも好調の三菱「アウトランダーPHEV」

同社では今後、移動電源やスマートハウスへのEV活用といったV2X(ビークルトゥX)の提案もタイで展開していくとしている。

取材協力:日本アセアンセンター/タイ投資委員会(BOI