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Opinion

バリ取りの要諦は現状分析

「モノが壊れるのはエッジから」

バリ取り研究の第一人者である関西大学の北嶋弘一名誉教授は、エッジ品質の重要性を訴えてきた。最適な除去方法を考えるにも、評価する基準がなければ判断できず、妥協点を見出せないからだ。「モノが壊れるのはエッジから」「バリは必ず発生する」と、バリとの付き合い方を語ってもらった。

関西大学 名誉教授 北嶋 弘一 氏

-モノづくりの進化に伴い、後工程の重要性が高まっています。

「バリ取りに限って言えば、関心の度合いは十数年前からそれほど変わっていません。バリを評価する基準として、2004年にエッジ品質に関するJIS規格が制定されたものの、私の感覚では発注側の2割程度しか採用されていない。この背景には、製造技術者が『バリがどのような影響を与えるのか分かっていない』ということがあると考えています」

-バリによる影響とは。

「例えば、機構部品の加工後でバリ取りや切りくずの洗浄が不十分だった場合、作動不良、合わせ面のはめ合い阻害、歯車の騒音や摩耗などが考えられます。『モノが壊れるのはエッジから』です。超精密や微細の世界も例外ではなく、機械加工には必ずバリが伴います。0(ゼロ)にはならない。妥協点を探る意味でも、JIS規格に基づいた評価基準を検討いただきたいです」

-除去方法にも色々あります。

「バリの大きさ、形状だけでなく、成り立ちまで突き詰めてこそ、最適な方法を見出せます。結局は削り取って破壊するわけですが、選択肢を誤れば新たなバリを生み出しかねません。そもそも根本である加工条件から見直した方が早い場合も少なくない。ツールパス、切削条件、機械次第では、除去しやすいようにわざと発生させたり、バリをワークに入れたりといったこともできます」

-表面から見えないバリの場合はどうしたらいいでしょうか。

「取り除けないバリは存在します。複雑な流路のある部品がそうです。ダイヤモンド砥粒が含まれた粘着性流体を流して、一気に圧力でバリを飛ばす方法があるものの、除去装置が高価です。コストと品質のバランスから判断し、折り合いをつけていくしかありません」

-後工程の自動化提案も活発です。

「力覚センサーで圧力が調節できるようになっても、手作業と同じレベルにするのは簡単なことではありません。これまで申し上げたとおり、さまざまな条件によってバリが異なるからです。微細なバリは見逃して、産業用ロボットで9割仕上げることはできると思います。良い意味で妥協点を見つけていくことです」

-注目している技術は。

「超高圧クーラントとウォータージェットです。前者はトクピ製作所などが提案している機械加工技術で、切りくずを細分化させるだけでなく、バリ生成の原因となる刃物摩耗を抑えることができます。後者はスギノマシンの独自技術です。水中洗浄槽を備えた機種では、噴射ノズルで狙い撃ちし、部品内部にバリや切りくずが再付着することを防ぎます。イニシャルコストはかかりますが、両者で入口と出口を押さえれば完璧でしょう」

-バリ取りの要諦とは。

「発注者側はエッジ品質の確立、受注者側はバリの現状分析です。バリがどう発生して、どのような影響を与えるのか。立ち止まって考えてみることが大事です。AIが評価した答えでも正しいとは限らない。枝葉にこだわらず『加工すればバリが出る』という意識のもと、現場で教えていかなければ、根本は正せないと思います」