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Opinion

中国の義務教育改革が教育産業に与える波紋

「中国、学習塾を規制」「学習塾を非営利に」。これは7月下旬、中国共産党・政府が打ち出した義務教育に関する新たな方針に対し、日本のマスコミ各紙が報じた記事の見出しである。

記事を読み進めると、中国政府のアリババなど巨大IT企業に対する統制強化の動きが、成長著しい教育産業にも波及し、ビジネスリスクが増大していると伝えている。

こうした見立てには根拠がある。中国共産党中央政治局は202012月、「独占禁止と資本の無秩序な拡大の防止」を決定し、該当する企業に対して監督管理を強めていた。7月には配車サービス最大手の滴滴出行が、中国当局から顧客の個人情報の収集・使用に重大な法規違反があったとして、アプリストアでの配信停止を命じられた。今回の教育産業に対する規制強化もこの一環なのだろうか。

ことの発端は、中国共産党と国務院が724日付で発出した通達「義務教育期間にある学生の宿題負担と校外学習による負担のさらなる軽減に関する意見」だ。通達では、義務教育段階にある小中学生にとって過重な負担となっている学校の宿題と校外教育(「双減」と呼ばれる)を問題視。これらの負担を軽減するよう求めるとともに、高額な教育支出と保護者の子育て上の負担についても3年以内に大幅に削減することを目標に掲げている。

また、目標達成への具体的な手段として、小中学校と校外教育機構(学習塾)が取り組むべき改善点を細かく指摘している。例えば、小中学校には宿題を精査し、宿題の絶対量を減らす。小学12年生には書面での宿題は課さない、3~6年生には平均完了時間で60分以内に、中学生には90分以内の宿題量に留める。また、放課後に各種育成活動の時間を設け、学生の多様な学習ニーズに応えていくよう求めている。

校外の教育関連事業者にあたる学習塾には、非常に厳しい要求をつきつけた。義務教育の科目(体育、芸術などを除く)を扱う新規参入を認めず、既存の学習塾も非営利組織に統一的に改組する。法定祝日・休日、学生の長期休暇期間における学習指導は認めない。株式上場による資金調達も禁じている。

■目的は義務教育の質向上

「双減」通達には、参考にしたと思われる資料がある。「中国義務教育品質モニタリング報告」(2018年)と「中国教育財政家庭調査報告」(19年)だ。前者は義務教育上の課題として「学生の家庭での宿題時間が過度に長く、学習塾に通う学生の割合が高い。学習への圧力が大きい」ことを挙げている。学習塾に関しては、学習塾に通う児童の割合について、小学4年生では数学班が438%、国語班が374%だったとしている。都市部の児童の大半は学習塾のほか、英語やビアノなど複数の習い事をしていることから、その負担はかなり大きいといえよう。

後者の資料では、家庭の教育支出負担の現状が示されている。なかでも義務教育の児童・生徒を持つ家庭の校外教育支出は多く、家庭教育支出全体に占める割合は平均で4分の1に達するという。小中学別の割合では、小学生を持つ家庭で281%。中学生で228%。特に都市部ではその割合はさらに高くなり、小学生を持つ家庭で36%、中学生を持つ家庭で28%となっている。

「双減」通達が対象とする義務教育は、人的資本の形成にとって重要な段階であり、その健全な発展は社会の安定と持続的な経済成長に貢献する。中国が国として義務教育に積極的に関与することに異論はない。ただ、その進め方によっては、合法的な事業活動を展開してきた企業にも想定外のダメージを与えることになりかねない。そうなれば、学習塾を利用してきた子どもにも影響が及ぶだろう。「双減」に関する実施細則はまだ公布されていないが、中国当局の丁寧な対話が望まれる。

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠
あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。