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Opinion

これからのホワイトカラーワーカーの働き方

関西学院大学 総合政策学部 教授 古川 靖洋

2020年2月頃からの新型コロナウイルス感染症の蔓延により、日本の企業で働くホワイトカラーワーカーの働き方は大きな変換を強いられることとなった。

(ふるかわ・やすひろ)1962年神戸市生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程修了、商学博士。2003年~関西学院大学総合政策学部教授。2007~2008年ワシントン大学客員研究員。主な研究分野は計量経営学、経営戦略論、オフィスの生産性。著書に『テレワーク導入による生産性向上戦略』(千倉書房)など。

特に、感染症対策としてテレワークの導入・実施が半ば強制的に進められた。東京商工会議所の調査によると、20205月末には673%の企業がテレワークを実施していた。現在、感染状況が少し落ち着きを見せていることもあり、従来通りオフィスへ出社するワーカーが増えてきているが、テレワークありきの状況で働いている者が多いと考えられる

このようにこの2年間で多くのワーカーがテレワークを利用し、そのメリットを体感したので、今後彼らの働き方にも変化が出てくると考えられる。コロナ禍以前にはテレワークの導入に懐疑的だった者も多いが、日本経済新聞社の調査(2020107日朝刊掲載)で「業務の生産性が上がった」及び「変わらない」と回答した者は合せて734%に達しており、テレワークでも十分に仕事ができることを実感した。また、通勤時間の短縮などでワークライフバランスを享受した者も多い。デメリットもなくはないが、デメリットをはるかにしのぐメリットがあったと考えられる。きっかけがコロナ禍とはいえ、今までなかなか実行できなかった働き方改革が短期間に進んだといえるだろう。

ワーク.jpg現在実施されているテレワークは完全在宅型が主流なのであるが、感染状況の落ち着きと共に、その形態は変化してくると予想できる。元々総務省などの諸官庁が目指していたように、ワーカーの業務内容や生活状況に沿った形で、多様なテレワークが実施されてくるだろう。例えば、午前中は小さな子供の世話や介護のために自宅で集中して業務を行い、午後からは打合せのために出社するという形や、自宅近くのリモートオフィスを活用する形、さらには月の半分は地方の保養地からワーケーションで仕事をするという形もあるかもしれない。実際、オフィス家具メーカーであるオカムラの調査によると、オフィスへの出社率を1~5割とする出社とリモートワークを組み合わせた働き方を望むワーカーが4割弱存在していた。

このように、オフィスへ出社し業務を行なうワーカーとテレワークにより業務を行なうワーカーが混在するようなハイブリッド状態に移行すると、企業は働き方を柔軟にとらえ、オフィス環境もそれに応じて変更する必要が出てくる。例えば、ABWActivity Based Working)はその新しい働き方のひとつである。ABWとは元々オランダから始まったワークスタイルで、モバイルツールを駆使しながら、働く人がいまやるべき仕事に対して、いつ・どの場所でやるのが最も効率がいいかを自分で決めることができる働き方のことである。例えば、集中が必要な作業であれば周囲から邪魔されないスペースを使用して1人で作業し、逆に適度なコミュニケーションをはさみながら作業を進めたいときは同僚が集まっている空間に行き、そこで業務を行なうことなどがこれに該当する。

ABWを推進するのであれば、各企業はそれにマッチするオフィス環境とその運用方法を用意しなければならない。例えば、フリーアドレス・オフィスはその一例である。ただ、フリーアドレス・オフィスといっても従来のオフィスのようにベンチテーブル型の机が長方形に並べられ、それを自由に使用するような運用はあまり好ましくない。前述のオカムラの調査によると、出社した方がはかどる業務は「上司・部下への報告作業」や「ちょっとした相談」、「偶然発生する雑談」などである。逆に個人作業はリモートの方がはかどるという結果になっている。出社するワーカーがより効率的に働くためには、報告作業やちょっとした相談ができる少人数対応の打ち合わせスペースを充実させる必要があるだろう。加えて、出社していても適宜個人作業やリモート会議に対応できるようなブース型のスペースを設置することも有用と考えられる。

「偶然発生する雑談」を促進するためには、近年オフィスへの導入が進んでいるカフェスペースの利用が有効である。かつて、インフォーマルコミュニケーション促進のためにリフレッシュスペースの導入が主張されたが、さぼっているように見えるためかほとんど利用されず、その後消滅してしまったところも多い。しかし時代の流れとともに、ワーカーの要望に沿って社内にカフェスペースを設置し、そこでの打ち合わせなどを利用して情報交換を図るという働き方が日本でも次第に定着してきている。このような新たなニーズを反映したオフィス環境を整備し、このような柔軟な働き方を容認していかないと、ワーカーは出社する意味を見い出せず、彼らのモチベーションアップにはつながらないのである。

前述したようなハイブリッド状態で業務を行うことが一般的になると、直接人と接する機会が減少するのは事実である。そのような状況の中で効率的に業務を行なっていくためには、新たなオフィス環境に加えて、個々の業務内容の明確化とワーカー間の信頼関係の醸成が必要である。これまでよりもワーカー相互間の顔を直接見る機会が減る状況では、お互いの信頼感がなければ、意思疎通をし、きちんと業務をこなすことが難しくなる。ハードばかりに目が行きがちであるが、人間関係構築の基礎となるところにも同時に注意を払うことがこれからはより重要になるのである。

(2022年1月10日号掲載)