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Opinion

ロボットが自らエレベーターに乗れるように

つくり手と使い手を連携

東京・霞ヶ関の経済産業省ビル地下1階のファミリーマートに昨年10月、バックヤードで飲料補充するロボットが導入された。人工知能(AI)を活用し、1日に約1000本行われている飲料陳列を店舗従業員に代わり24時間担う。コンビニエンスストアへのこの種のロボット導入は他社では例がないという。導入にひと役買ったのは経産省が2019年秋から始めた「ロボット実践モデル構築推進タスクフォース」。どんな未来像を描くのか。

おおぼし・みつひろ 1978年広島県出身。東京大学法学部卒業後、2004年経済産業省入省し、島根県商工労働部産業振興課長、復興庁福島復興局参事官などを経て21年7月から現職に。福島で暮らした頃は連休に百名山に登ったが、最近は休日の朝に自転車で豊洲市場に出かけ、イカやマグロを買って自宅で調理する。

経済産業省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室長 大星 光弘 氏

5面インタビュー経産省ロボット政策室大星室長P2.jpg

ファミリーマートに導入された水平多関節ロボット「TX SCARA」

-タスクフォースの狙いは。

「ロボットフレンドリーな環境をつくる、世界でも類を見ない新しい取り組みです。ロボットを動かすにはその動線をどう描き、照度をどう設定するかといったことを決めねばなりません。またエレベーターにどう乗せ、建物のセキュリティーとどうやって通信させるのかも考えねばなりません。その標準化を経済産業省が主体となって進めています」

「いま取り組んでいるのはエレベーター。ロボットがエレベーターに乗っているのをまだ見たことがありませんよね。企業の建屋は複数階にまたがるのが普通で各階にロボットを配置できるとは限りません。そこでロボットが自らエレベーターに乗れるようにするための標準化に取り組んでいるところです」

-このビルの地下1階のファミリーマートに飲料補充ロボットが入ったのもタスクフォースの成果の1つだそうです。

「そうです。ロボットがバックヤードで飲料補充する様子を見ると、一般の人は俺の方が速く補充できると言います。もちろんもっと速く動かすことはできますが、それは売れていくスピードではない。冬場に寒いバックヤードでも文句を言わず、ゆっくりでも24時間動いてくれることが重要です」

-ロボットを普及させるための課題は何でしょう。

「利用者がロボットを理解することが重要。動きが単に速いか遅いかではありません。タスクフォースでは、利用者側もロボットがきちんと動ける環境を整えようとしています」

「自動車や電子部品の工場でロボット導入が進む一方で、中小企業にはあまり広がっていません。その理由は、食品なら対象物が不定形で扱うのが難しく、導入するための費用も高い。そもそもロボットに詳しい人材もいません。メーカー・ユーザーの理解と連携が欠かせず、タスクフォースにはロボットを作る側、ロボットを利用する側にも参画してもらっています」

-ロボットの使い方も変わりそうです。

「工場なら安全柵のなかでロボットが次々に仕事をこなします。あくまでも固定された環境の中で。ところが人との交わりのある作業ではロボットが動き回り、道を整えて人とぶつからないようにする必要があります。難易度が少し高まり、だからこそロボットフレンドリーな環境の実現が必要になります」

「たとえばお惣菜の盛り付けを自動化しようとすると、掴み方やパッケージが重要になります。それを考慮してライン化するのに多額の費用がかかります。盛り付けロボットシステムを作るのに約4千万円かかるところを500万円ほどに抑えようと取り組んでいます」

8分の1にまで抑えられますか。

「標準化すれば利用が進みます。日によって内容の変わるお弁当のどんな具材でもうまく掴めるハンドも必要になりますが。これはメーカーとユーザが一緒になって考えねばなりません。普通はここで終わるのですが、タスクフォースは業界を巻き込んで進めているので、容器の規格化なども考慮します。こうした取り組みは業界が支持してくれており、食品分野では世界に先駆けて成果が出せると思います」

2022125日号掲載)