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Opinion

「少子高齢化」が「世界の工場」の変革を促す

愛知大学 国際ビジネスセンター 所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。

中国が「世界の工場」と呼ばれて久しい。40年あまり前に改革開放政策へ舵を切り、市場経済化によって驚異的な経済成長を成し遂げた中国。製造業はまさにそのけん引役だった。その製造業を支えたのが「豊富で安価な労働力」である。実際、繊維、食品加工、部品組み立てといった労働集約型産業では、この労働力を求めて中国進出を果たす企業が多かった。また、労働者の「若さ」も大きな魅力であった。当時、工場の一般ワーカーは日本でも量的には確保できたが、30代から50代の中年世代が多く、視力、集中力などの身体的な衰えが安定生産の制約になっていた。

しかし近年、中国の労働力は人口構造の変化によってボトルネック化しつつある。先月、中国国家統計局が発表した2021年の人口統計からその現状を確認してみよう。なお、2020年以降の数値には新型コロナ禍という制約要因があったことも留意する必要がある。

まず少子化だが、出生数は5年連続の減少となる1062万人だった。中国は2016年より第2子の出産を全面的に認め、2021年には第3子の出産も容認した。しかし、出生数は2016年の1786万人と比べ724万人も減少し、歯止めとはなっていない。出産適齢期の女性人口の大幅減少に加え、婚姻数の減少が続いているためだ。2020年の中国本土住民の婚姻数は813万組と、2015年の3分の2までに落ち込んでいる(表参照)。

出生率の低下傾向を改善することは可能なのだろうか。「低出生率の罠」という仮説がある。ある社会で非常に低い出生率が長期間続くと、生活思考様式の変化によって出産に消極的な傾向が強まり、低出生が常態化するというものだ。周知のとおり、中国は1980年から国策として都市部住民に対する全面的な「一人っ子政策」を実施してきた。その一人っ子たちがいま、結婚・出産適齢期にある。しかし、経済成長下で豊かさを享受し、質の高い教育を受け、多様な価値観を持つに至った彼らにとって、結婚や出産だけが人生の選択肢ではないのだ。

次に高齢化である。2021年の高齢者人口は初の2億人を突破した。高齢化率(満65歳以上の人口比率)は前年の135%から142%に達した。有識者のこれまでの予測では、2025年頃に高齢化率14%超(国連などが定義する「高齢社会」の基準)に達するとされていた。少子化の想定以上の急速な進行で、相対的に高齢化が前倒しされた格好だ。ちなみに日本が高齢社会を迎えたのは1994年である。

歯止めのきかない少子化と表裏一体で進む高齢化は、労働力の量と質に大きな影響を与える。量(生産年齢人口)は2012年に初めて減少に転じ、その傾向がいまも続いている。2021年の生産年齢人口(16~59歳)は88222万人であった。これにより、最低賃金の上昇は不断に続いている。上海市では月あたりの最低賃金が20年前(2001年)は490元だったが、2021年は2590元と約5倍になった。また若年層の減少により、労働力の高齢化も進んでいる。一方、質(人的資本の形成)は少子化に伴い、家計における教育支出が増加した結果、大きく改善している。生産年齢人口における平均教育年数は2020年が108年で、2025年には113年を目標に掲げている。

少子高齢化が想定以上に進行する中国が取り組むべき政策的課題はなにか。それは人口構造の変化に対応した政策、供給面でいえば「世界の工場」の改革による「生産性の向上」がカギとなる。詳細は筆者がこのほど企画担当した『中国21』第55号「少子高齢化と中国経済」の蔡昉社会科学院副院長の論説を参照願いたい。

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(2022年3月10日号掲載)