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Opinion

愛知大学 国際ビジネスセンター所長 現代中国学部 准教授 阿部 宏忠

コロナ禍で経済成長を求める難しさ

「『五一』(労働節)の連休は、感染予防措置をとったうえで、美しい春を楽しんでほしい」。これは昨年4月下旬、中国の衛生当局幹部が語った外出奨励の言である。当時、日本は4都府県に緊急事態宣言が発令中で、ゴールデンウィークを楽しむどころではなかった。新型コロナを見事に抑え込んだ中国をうらやましく思ったものだ。

あべ・ひろただ 20年間の日本貿易振興機構(JETRO)勤務を経て2011年から現職に。JETROでは北京、上海、青島に計10年間駐在し、日系企業の中国進出を支援したほか中国市場を調査。1968年生まれ。

それが1年後、日中両国の状況は図らずも真逆となった。日本はコロナ禍以降で初めてとなる行動規制のないゴールデンウィークを迎え、多くの人たちはマスクを着用しながらも休暇を楽しむことができた。一方、中国はご存じのとおり、上海市など各地でゼロ・コロナ政策に基づく厳格な防疫措置が講じられている。いつもなら、国内外の観光客で溢れかえる上海市では3月末からロックダウン(都市封鎖)が始まり、1カ月以上も続いている。その様子は日本でも各種メディアが連日のように報じているが、多彩な魅力を放ってきた魔都・上海とは信じられない風景に驚くばかりだ。

上海市に住む中国人の知人らは「大変だけど、友人や同じマンションの住民同士で助け合っている。もう慣れてきた」「食事はすべて自炊。長年外食を利用してきたので、手間と時間がかかり面倒」と話す。また、上海市には日系企業の駐在員を中心に約38千人の在留邦人がいる。単身赴任者も多いため、不自由な生活が続く中、ストレスの解消もままならず、皆かなり苦労されているようだ。

■上海経済への影響は必至

中国最大の国際商業都市・上海市のロックダウン長期化は今後の経済運営に大きなダメージを与えるとみられる。特に上海経済(表参照)を特徴づける消費、第三次産業、自動車産業への打撃は大きいだろう。上海市の一人当たり可処分所得は78千元に達し、全国トップを誇る。購買力を示す社会消費品小売総額も主要都市で全国トップにある。この好条件を活かし、上海市は「国際消費センター都市」建設を目指し、率先して取り組んできた。しかし、今回のロックダウンにより市民の消費は制約され、昨年6千億元に達したという外来消費も厳しい入境制限により減少は避けられない。

第三次産業と自動車産業も、上海市が中国全体に占める割合の高いことから、その影響が懸念される。昨年の上海市の自動車生産量は283万台(中国全体の107%)で広東省に次いで全国2位、うち成長著しい新エネルギー車は63万台(同178%)で全国1位となっている。しかし、ロックダウンによって労働者の確保のほか、部品調達、物流にも影響が及んでいるとされ、厳しい事業経営が予想される。

このほかにも、上海市には日本企業の在中国拠点が1万前後と最も多く立地している。上海市のロックダウンによる経済への影響は、つながりの深い日本にとっては避けられないだろう。その影響がどの程度なのか注視していく必要がある。

今年の五一黄金週は、感染力の強いオミクロン株への防疫措置により、経済活動を犠牲にせざるを得ない状況になった。「経済」という言葉は中国の古典にある「経世済民」(世を經(おさ)め民を濟(すく)う)を語源とする。コロナ禍が続く世界で、経済を実現することの難しさを改めて感じている。

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2022515日号掲載)