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Opinion

アフターコロナの都市の姿

転換期の郊外、機能集中続く大都市

人類は、ある空間に人や機能を密集させる「都市という技術」を生み出し、事業効率を高めたり多様な娯楽を楽しむなどの豊かな生活を享受してきた。この大都市集中の流れに、COVID-19のパンデミックが、どんな変化をもたらすのだろうか。

1961年秋田県生まれ。84年京都大学経済学部卒業。同年に建設省入省した後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市地域整備局まちづくり推進課都市開発融資推進官などを歴任し、04年から現職。経済学博士。主な著書・論文に「都市住宅政策の経済分析」(03年、日本評論社、日経・経済図書文化賞、03年NIRA大来政策研究賞)などがある。

日本大学 経済学部 教授 中川 雅之 氏

人や機能の密集はCOVID19の感染拡大を招くと危ぶまれている。テレワークが今までにないペースで導入され、多くは好意的に受け止められていることなどから、「大都市への一極集中を是正するチャンスだ」などの見方も広がっているようだ。

しかし、私は大都市集中の流れが終わるとは考えてはいない。テレワークなどの新しいテクノロジーが大きく影響するのは同意するが、歴史や経済学的な視点からさまざま分析すると、大都市集中の流れは今後も緩やかに続くとみている。

「分離立地」戦略が加速

経済学の視点からみた「企業」の機能は、本社と生産の2つに分かれ、その立地戦略は主に、本社と生産を同一場所に立地させる「融合立地戦略」と、本社を大都市に、生産を地方都市に分離する「分離立地戦略」に分けられる。分離立地戦略については、本社機能を弁護士・会計士や金融サービスなどの専門サービスが集積した大都市におく一方で、生産機能は部品加工や材料の事業者が集積する地方都市を業種別で選択して立地できるメリットが大きい。唯一、本社と生産現場とのコミュニケーションコスト(移動の費用や時間など)がネックになっていたのだが、コロナ禍で導入が広まったオンライン会議システムなどのテクノロジーで、このコストが大幅に引き下げられる可能性が見えてきた。

これらを勘案すると、今後は企業の立地戦略は分離立地に傾き、日本の国土構成は本社機能が集中した大都市と生産機能に特化した小規模都市への分化が進むとみている。本社機能の集中は東京でも続くが、従前から人口流入が増加している札仙広福(札幌、仙台、広島、福岡)など地方中心都市でも加速するだろう。

孤独感が壁、5割が出社選ぶ

本社業務では、管理職や技術的専門サービス、研究職などフェイストゥフェイスが望ましい職種が多い。企業合併などの検討は相手が信頼に値するかどうか顔を見て話さなければ始まらないであろうし、新製品企画のアイデアやイノベーションはオフィシャルではない日常的な接触から生まれることも多い。一方、職務内容がルーティン化している事務的な職種はテレワークが馴染みやすいとみられている。ただ、全員がテレワークを選ぶわけではなさそうだ。

課題を浮き彫りにしたのは、米スタンフォード大学のブルーム教授が2015年、中国のオンライン旅行代理店最大手・シートリップのコールセンター業務を対象に行った実験だ。参加を希望した職員503人をテレワーク(在宅勤務主体、打ち合わせなどで週1回出社)とオフィス勤務の2グループに分け、その生産性を調査したところ、テレワーク群では明らかに生産性(1週間あたりの電話回答件数40件増など)が上がり、離職率が下がる好結果が得られた。

オフィススペースや設備費も大幅削減できることなどのメリットも踏まえ、シートリップはテレワークの全面解禁に踏み切った。しかし、後に職員の50%はオフィス勤務に戻ったそうだ。最大の理由は孤独感。次いで、「仕事ぶりを上司に見てもらえず昇進に影響するのではないか」と心配する声も多かった。日本も中国も、他者とのかかわりを仕事に依存している人は多く、この結果は見逃せない。コミュニケーションの取りやすさから考えても、リモート業務は、フェイストゥフェイスの不完全な代替物と言わざるを得ないだろう。

コミュニケーションが不完全でもリモートに適した職種は多い。アフターコロナの世界では、すべての人が郊外のベッドタウンから都心に毎日は通勤しなくなるだろう。混雑を緩和するテクノロジーを活用しつつ、緩やかなアクセシビリティで都心と郊外がつながるとみている。ただ、郊外都市はニーズの変化が急で、都心の密集や通勤苦を避けて働けるサテライトオフィス、孤独を癒せる楽しいコミュニティなど魅力ある生活圏の構築が必要になる。コミュニケーションコストを下げるためには郊外都市内の交通網整備や、コンパクトシティ化も必須。変化に合わせた柔軟な開発規制も求められる。

(建設経済研究所が1111日開催したウェビナーより)