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Opinion

(一社)日本鍛圧機械工業会 代表理事会長 北野 司 氏

機械メーカー×ユーザーで「モノづくり総合力」発揮

――最近の景況は。
「景況感はそれほど悪くありません。設備投資意欲は補助金の関係もあって横ばいから上向きの状態でしばらく推移しています。コロナ前の状況近くまで回復してきました。ただ、ご存知のように電子部品の供給が滞り長納期化しています。そのため設備投資に若干慎重にならざるを得ない。それに材料、副資材、エネルギーを含め様々なモノが高騰しています。にもかかわらず売価はそれほどアップできないので利益面は厳しさが続きます」

(アイダエンジニアリング常務執行役員)
きたの・つかさ 1960年京都市下京区生まれ。同志社大学商学部卒業後、機械系商社勤務を経て1989年アイダエンジニアリングに入社。ずっと営業畑を歩み2017年から3年間は中国・上海に赴任し、2020年に常務執行役員。週末は日帰りか1泊の小旅行を妻と楽しんでいる。

――明るい話題はありますか。

「自動車の電動化は日本に限らず世界で進んでいるので、この分野の設備投資意欲は大きい。この6月の日鍛工の受注額はポンと跳ね上がり(前年同月比387%増の439億、2面にグラフ)、EV向けの投資が多分に含まれます」

――鍛圧機械で注目される技術はありますか。

「プレス機械と板金機械に分かれますが、プレスではEV向けが活況です。モーター内部のステーター、ローター部品、いわゆるモーターコアはプレス加工での生産が一般的で、プレスがたくさん必要になります。なぜかというと、エネルギー効率を高めるために打ち抜く板厚が0.25㍉とか0.3㍉と薄くなり、それを積み重ねる。プレスの上下スピードは毎分400回前後なので、たとえば薄板を400枚重ねるには1分間を要します。速く動いてもひとかたまりの部品ができる数はそれほど多くない。EVの伸びのカーブに付いていくにはプレス機の台数を増やす必要があります。また自動車駆動にはパワーが必要でモーターが大型化しています。そのため機械送り量を大きくするとともに周辺装置のスピードアップも必要ですし、薄板を打ち抜くので高い精度も欠かせません。精度が悪いと金型が摩耗したりします。こうした難しい領域のプレスの受注が増えてきています」

「バッテリーの外側のハウジングもプレス加工でつくるので、これ向けのトランスファープレスも好調です。ワーク材質としてアルミが多く、形は北米EVメーカーが採用する丸形や日本のカーメーカーの多くが採用する角形があります。角形のほうが電池を高密度で並べられますが、金型を含めてつくるのが難しく、技術としては改善の余地があると思います」

■プレスからレーザーへ

――板金機械で注目される技術は。

「高速加工や厚板加工でレーザー加工機の需要が高まっていて、とりわけファイバーレーザー(FL)が注目されます。FLは銅やアルミなどの加工に向くとされますが、高反射材向けはさらに波長が短いブルーレーザーやグリーンレーザーに移行しつつあります。FLは加工スピードが速く、薄板に限りますが、生産性は従来の比でないのでニーズは圧倒的に広がっています。今までプレスで打っていたものまで、少量から中量なら金型を起こさずにFLで置き換えられます。ブランキングプレスをレーザーブランクに置き換えようという動きですね。当工業会の新規会員にレーザー関係が多いのはこうした背景があります」

――工業会としての取組みは。

「鍛圧機械は日本のモノづくりの根幹を支える部分ですので、技術革新を工業会としても支援しています。取組みのなかにMF技術大賞があります。機械メーカーとユーザーの新しい取組みを表彰するもので、機械単体でなく、いわばモノづくり総合力の発揮を評価するもの。技術の底上げも狙っています。MFエコマシンという認証制度も進めており、2000年生産製品に対して20%以上のエネルギー消費の削減と省資源や騒音振動の軽減、有害物質不使用などを加味して認証し、エコに対する意識を高めるものです。この2つの取り組みは他の工業会では見られないものだと思います」

――来年のMF-TOKYO2023はどんな催しにされますか。

「副題を『人と地球にやさしい技術、確かな未来のために』としており、地球温暖化対策やDX化にもっと目を向けてその部分の貢献をアピールし、取組みを促そうとしています。鍛圧機械の省エネはかなり進んでいますが、IoTDXは工作機械と比較すると遅れているかと思います。一方でAIもプレス機に搭載されだし、学習機能を身に付けつつあります。データが集まればビッグデータとして活用して加工精度の向上につなげられると思います」

2022725日号掲載)