日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として創刊来、
半世紀を超す実績を持つ日本物流新聞のWEBサイトです。
サイト独自の情報を増やしています。

検索

Opinion

国難の今こそ本当の意味での危機管理を

変異を続ける新型コロナウイルスが、世界中で猛威を振るっている。元来災害の多い日本にとっては、南海トラフ地震や大規模水害などのリスクに加え新たな脅威が持ち上がった形だ。それらの国難を迎え撃つためには何が必要か。危機管理に精通する、人と防災未来センターの河田 惠昭センター長に聞いた。

かわた・よしあき 京都大学大学院工学研究科博士課程修了。関西大学社会安全学部・社会安全研究センター長・特別任命教授。京都大学名誉教授。人と防災未来センター長。京都大学防災研究所所長、日本自然災害学会会長などを歴任。専門は防災・減災・縮災。07年には国連SASAKAWA防災賞を本邦初受賞するなど、災害分野における著名研究者として国内外で活躍している。著書に『日本水没』(朝日新書)、『にげましょう』(共同通信社)など。

人と防災未来センター長 河田 惠昭 氏

20211月現在、防災・減災で求められる施策は。

「まずは何としても、新型肺炎の感染拡大を抑えなければならない。つまり、先手を取って人的被害を抑えるという『危機管理』が必要だ。ところが、日本の対応は危機管理ではなく『社会経済被害だけはどうにかしよう』ということ。要するに、何が最も重要かという意識が統一されていない。社会経済被害の抑制と感染症対策の折り合いをつけようという下心が窺えるが、今回の事態はまさに災害であり、その姿勢で危機管理は立ち行かない。あれこれやろうとするうち全てが後手に回ってしまう」

-現状の日本の危機管理に対する姿勢では不十分だと。

「不十分だ。危機管理は平時と同じ考え方ではいけない。つまり駆け引き無しの全力投球が鉄則だが、日本のやり方はいわゆる『戦力の逐次投入』。これは最も避けるべきであり、このままでは状況は致命的になってしまう。事態は既存の知識では判断できないと認めなければならない。政治家には勇気が求められるが、諸般の事情を勘案するのでなく、これ以上の犠牲者は絶対に抑えるという力強いメッセージを示す必要がある。だが、そういった強い覚悟が今は見えてこない。日本は存続に関わるほどの痛い目に遭ったことのない幸運な国であり、本当の意味での危機管理の経験が無いからだろう」

-その幸運さが感染症対策では裏目に出ていると。

「そういうことだ。とにかく事を重大に考えない。災害など都合の悪い事態を『起こらないこと』にし、目を背けてしまう。一番怖いのは最悪のシナリオを考えず手遅れになることだが、今はまさにその道を辿りつつある。感染症の専門家ですら今後の感染動向を予測不能と言っているのに、感染が収束に向かうという願いに縋って推移を見守っている。最悪の事態を想定し、手を尽さなければ。いくら経済補填をしようと、国が潰れてしまえばどうしようもない」

危機管理体制の強化へ防災省の設立を

-感染症の猛威の一方、首都直下型地震や南海トラフ地震の脅威も指摘されています。これら国難災害に対応するために必要な体制は。

「感染症対策のように厚生労働省に対策委員会を設け、そこで方向性を決めるという体制では首都直下型地震や南海トラフ地震に対応できないだろう。仮に感染症の流行下で大地震が発生した場合、感染症と地震の対策本部が別々に立ち上がることになるが、それで上手くいくはずがない。感染症や地震という枠組みに捉われず、国全体の危機管理として対応すべきだ。しかし現状はそういう仕組みでなく、仮にこの状況で大災害が発生すれば、お手上げになるのは目に見えている」

-危機管理対応を担う組織として、防災省の創設を提言されています。

「防災省の手本に考えているのは、アメリカの連邦緊急事態管理庁(FEMA)。1兆円規模の独立財源を持ち、大統領が非常事態を宣言するとその予算で事態のマネジメントを行う。その対応事項は15に類型化されており、有事の際にどの組織が主要機関やサポート機関になるかという調整役を担うわけだ。この予算という点が重要で、日本の場合に一番困るのは有事でも財務省が認めねば予算が使えないということ。それでは災害対応は遅れてしまう」

「また、FEMAは長い歴史の中で失敗と改善を繰り返してきた最終プロダクトでもある。日本はそれを真似て、そのうえで少しずつ日本流に変えればいい。小さく生んで大きく育てるべきだ。東日本大震災で発足した復興庁を防災庁に発展させ、順次規模を広げればいい。ただし縦割り構造は廃し、水平連携できるシステムにする必要はある」

防災の鍵握る「文化」

-政府は災害が「起こらない」という希望的観測に縋っているというお話がありました。一般市民に関しても同様のことが言えるでしょうか。

「市民に関しては、首都直下型地震や南海トラフ地震など元々頭にないというのが正しいだろう。鬱陶しいことは考えたくないのが人間心理。そこを変えなければ。問題は災害の知識や経験が『文化』に育っていないことだ。文化とは日常生活のこと。例えば食料やトイレットペーパーを今より多く備蓄するなど、防災を生活習慣にするトレーニングする必要がある。訓練である以上頭でっかちは駄目だから、被災地に足を運ぶなど体で覚えなければ」

-防災行動を自らの行動様式に落とし込む必要があるのですね。

「そう。災害情報は迅速・正確になってきたが、皆避難しない。なぜなら他人事だと思っているから。気象庁や自治体が避難を勧告しても『関係ない』と勝手に判断している。そして災害に巻き込まれる。大切なのは文明ではなく文化だ。緊急地震速報の精度がいくら上がっても、そういった数字で表せる『文明』では人は逃げない。なぜなら文化になっていないから。地震の被災を我が身のことと考えれば、普段からすべきことは多いはず。それを実践してほしい。我々は身近な物事はそうして習慣化するのに、災害だけは他人事だ。災害を自らの問題と捉えなければ対策は進まない。感染症も、皆が我が身のことと考え行動を変容させねば制圧できない。災害も感染症も同じ。危機管理は当事者意識が大切だ」