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湯本電機、新事業が途切れないシン・マチコウバ

若き力で製造業に新風

「シン・マチコウバ計画」と銘打たれたプロジェクトで、大阪市東成区に洒脱な雰囲気の植栽茂るガラス張りの工場が誕生した。若手が集う町工場のロールモデルとなるべく、樹脂や非鉄金属の切削を手がける湯本電機が建てたものだ。同社ではこうした新事業プロジェクトが常に15以上進み、今までも宇宙産業への進出やAM事業、ベトナム工場等を形にしてきた。進行中の計画を湯本秀逸社長にたずねると、米国進出、さらには民泊業や農業への参入という予想の斜め上の答えが返ってくる。

新本社工場のコンセプトは工場らしからぬカッコ良い工場。二期工事で隣の2棟も建て替え、一つに集約されて完成する計画

[樹脂・非鉄金属の切削加工] 
大阪市東成区

「大前提として、仕事は楽しいものじゃない。ずっと同じ仕事だと飽きると思うんです」。湯本社長はあけすけに話す。「ただ色々な事業を育てて分社化し、社長も含めたポジションが複数できれば新たな仕事に取り組めるチャンスも増え飽きないしモチベーションになる。常に右肩上がりの成長を目指す理由も同じで、管理職ポストが増えないと同じ仕事から解放されない。社員に少しでも前向きに仕事に取り組んでいただくための戦いです」

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湯本秀逸社長

三代目の湯本社長が経営の根幹を担うようになり、売上と社員数は15年前の4倍に。増収は11期連続だ。ベトナム工場含め18台のMCを持ち、5軸や複合加工機を駆使して半導体や医療向け製造装置部品、大学の試作依頼など複雑な加工をこなす。AIソフトや類似図面を導くシステムなどデジタルを駆使して2時間以内の見積り回答を掲げ、仕事の早さも武器にした。町工場の殻を破る同社に若手も集い、平均年齢は33歳に下がっている。

成長の陰に上述の新事業プロジェクトがある。今では欠かせない品質管理機能も、元はプロジェクトの一環で発足したものだ。だが新事業ですぐ利益を生む狙いはない。「それで稼ぐより社員の仕事力を高めるトレーニング。何かを形にした成功体験が、やがて会社の成長につながるかもしれない。そんな目で見ています」

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工場内には5軸機や複合加工機が並ぶ。特注で機械の塗装色も変えるなどカッコよさを重視 

プロジェクトへの参画は基本的に挙手制。湯本社長は「形になるものもあれば、ならないものも沢山ある」と笑いつつ、それも経験値とどっしり構える。

■宇宙を伸ばす

新規事業では特に宇宙産業へ力を注ぐ。「既存の製造業は成熟しており飽和状態。新たな大型需要が見込めるのはこれから生まれ育っていく新産業に限られる」からだ。国内では小型衛星の筐体など多くの部品製作実績がある。進出先のベトナムでも同国の国産衛星プロジェクトへの参画が決まった。来年度に米・テキサスへ拠点を作り、宇宙産業の覇権を握る米国のニーズを取り込む計画も進行中。「黎明期の今は市場も小さく利益を生みづらいが、将来の投資的な意味合い。ゆくゆく『宇宙のこの部品は湯本電機』と頭に浮かぶ存在になれれば」と展望する。

ところで冒頭に触れた農業への進出も狙いがある。「農業も製造業も構造は同じ。儲からないので若い担い手も不足し廃業が続く。我々はそれを製造業で打破してきたので、農業でも同じことができるのではないかと」。やるからには製造業の知見を活かせる施設管理農業で、画像認識やロボットを使った省力化など工場的アプローチを模索するつもりだ。

「各人、各国が得意分野を伸ばすのが世界全体で見ればベストで、日本はきっちりしたモノづくりが得意。今の製造業はイメージが良くないですが、こんな町工場もあるんだと若い方に知ってもらい、業界を活性化できれば」

(2024年4月25日号掲載)