日本物流新聞

刃先をミクロン単位に仕上げる

つめ切りのシャープな合刃、紋様はダマスカス

硬さの異なる材料を重ねて鍛えることで、独特の鍛流線(ダマスカス)が浮かび上がる

刃の合わせ面をダイヤモンドやすりで磨く

切れ味を徹底追究した「つめ切り」

株式会社諏訪田製作所/新潟県三条市

「ニッパー式つめ切り」

古くは戦国時代から続く鍛冶の町、新潟県三条市。豊かな稲田が広がるこの町に、年間3万人もの来場者を集める鍛冶屋がある。盆栽用特殊鋏(はさみ)とニッパー式つめ切りなどの喰い切り鋏において、「世界最高峰の切れ味」の評を国内外から集める諏訪田製作所だ。
約50人の職人を擁する工房「OPEN FACTORY」はガラス張りになっており、通路から作業の一部始終を自由に見学できる。一般には公開を嫌う工場も多いが、「職人の手仕事は機械と違って、昨日より今日のほうが成長していくもの。その積み重ねを当社は92年続けてきたのですから、簡単に真似できるものではありません。むしろ、正直にお見せすればお客様に良さを分かって頂けるきっかけになると思っています」。
3代目の小林知行社長の狙いはピタリ。来場者の4割が併設のショップで購入し、ネットを含めたBtoCの売上は年間1億円以上にも達した。

【誇りある「鍛冶」を次代に】
熱間鍛造のプレス機は「同業では100トンを超えると珍しい」と言われるのに、同社では400トン級。高い圧力で引き延ばして何度も叩けば粘り強さが増し、刃こぼれしにくくなるそうだ。しかも、鉄の分子組織の並びを分断して弱めないよう最良の部位のみ用いるため、素材の廃棄率は同業では異例の7割にも及ぶ。
切れ味を決める最終工程では、職人がダイヤモンドやすりで、左右の刃の合わせ面を隙間なくピッタリ仕上げる。その合刃面の誤差はおよそ1000分の3ミリ。ここまで極めることで切れ味が増す。「機械の加工や測定では100分の1ミリが限界です。そこから先は、目と手触りが頼り」(小林社長)。
若手の倍のスピードで仕事をこなす匠の熟練技に若手は憧れ、技術を磨く。小林社長は「鍛冶は紀元前から続く歴史ある仕事。職人たちが誇りを持って働けるよう工場内の空調管理や給与・評価体系など環境を整え、技能を未来につなげていきたい」という。

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