日本物流新聞

チタンの軽さと美しさを表現した酒器

特許を取得した独特の構造

半世紀以上に渡って磨かれた技で絞る

桐製の化粧箱に入れて販売

唯一無二のチタン製酒器

株式会社高桑製作所/東京都大田区

「一枚鉸(ひとひらしぼり)」

中世ヨーロッパが起源とも言われている「ヘラ絞り」。金属の伸びる特性を利用した塑性加工のひとつで、金属を回転させながらヘラと呼ばれる棒を押し当てて立体に成形していく。モノづくりの自動化が進む昨今とは間逆の、職人の手腕によって成り立つ加工法だ。
1963年に設立された高桑製作所は、BtoBの製品を中心に手掛け、多くの上場企業から厚い信頼を築いてきた。だが、その技術を世に役立てる術を模索、「日々磨いた技で、これまで無かったものを創り出す」という信念のもと、一枚鉸の製作が始まった。

【熟練の職人でも日産3個が限度】
デザインや方向性は決まったが、実際に具現化するとなると、話は別だ。チタンの一枚板を二重構造にし、かつ外側と内側に傾斜をつけて形作る。熟練の職人たちをもってしても、製作は困難を極めた。素材の吟味から熱処理、新たな治具の製作まで、ありとあらゆる知見を持ち寄り、一歩ずつ理想のカタチに近づけていった。
同社内では9名の職人が腕を振るっているが、一枚鉸を絞れる職人は同社最年長の黒澤勇さん(72歳)を筆頭に、僅かに3名しかいない。しかも、同社を半世紀以上に渡って支えてきた黒澤さんをもってして「一日に2~3個作るのが限界」と言うほどの加工難度。その製法は特許も取得済みで、高桑社長は「チタン製酒器には同様のものもありますが、いずれも口元を溶接で仕上げたもの。継ぎ目無しで一体化できるのが弊社の技術力」と自信を見せる。
チタンの保温効果や抗菌効果といった機能的な側面もさることながら、モノづくり現場の技術力がアートへと変貌した唯一無二の酒器、と言えよう。

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