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Opinion

共栄法律事務所 溝渕 雅男 弁護士

窮地企業を救済するM&A

再生型M&Aというのを聞いたことがあるだろうか。窮境に陥った企業の事業再生のために行われるM&Aのことだ。この再生型M&Aは「事業の引き受け手(買い手)の目線で見た場合、通常のM&Aと比較してメリットがあることも多い」と共栄法律事務所(大阪市中央区)の溝渕雅男弁護士は話す。倒産件数は、景気の拡大期に増える傾向がある。大阪・関西万博、ウメキタの再開発など、景気に明るい話題の多い中、窮地に陥る企業も多いため、再生型M&Aも増えるかもしれない。中小企業にとっても、窮地に陥った同業者を「割安に」「GOOD(美味しい)部分だけ」継承し事業拡大できる手段として広がりそうだ。同弁護士に聞いた。

中小企業の事業拡大新戦略に

帝国データバンクの調査によると2023年度の近畿24県の倒産件数(負債額1000万円以上)は、2234件。ゼロゼロ融資の返済ピークが同年夏ごろにあったことも影響し前年度比32%増でした。再生型M&Aは「倒産」という最も悪い結果を避ける手段ですが、M&Aをする側のスポンサー企業にとっても大きなメリットがあるケースもあります。

再生企業は資産よりも負債の方が大きい債務超過の状態に陥っているため、株価は0円どころか、むしろマイナスの状態にあります。

そのため、中小企業における通常のM&Aとは異なり、再生型M&Aにおいては、株式譲渡ではなく事業譲渡又は会社分割の手法が用いられます。具体的には、再生企業を、事業価値のあるGOOD部分と金融機関からの借入等のBAD部分に分け、GOOD部分のみをスポンサー企業に譲渡することにより事業を再生させるのです。

事業の引き受け手(買い手)の目線で見た場合、再生型M&Aは、通常のM&Aと比較して以下のような特徴があります。

(1)事業の改善幅が大きい。

通常のM&Aでは、対象企業は相応の利益を計上しており、そのような利益等が考慮されてM&Aの対価額が決定されます。これに対し、再生型M&Aにおいては、対象企業が営業利益ベースで赤字になっていることも珍しくありません。

一見、スポンサー企業にとってメリットがないように感じるかもしれませんが、再生企業においては効率的な経営がなされていないことも珍しくありません。そのため、取得後に改善できる幅が大きい(言い換えると割安に事業を取得することができる)ケースも多いと言えます。

(2)競争相手が多くない。

再生型M&Aの場合、信用不安を避けるために多数の企業に対してスポンサー支援の打診をすることは難しいケースもあります。また、時間的余裕がないケースも多く、そのような場合は早期にスポンサーを決定せざるを得ないこともあります。

買い手目線で見ると、通常のM&Aに比べると競争相手は少ないことが多いと言えます。

■感謝されつつ大阪のモノづくり継承

その他、再生型M&Aにおいては、金融機関に対する借入金の大部分を免除してもらうことが前提となるため、その手続の概要を理解しておくこと、また、再生企業はその後に清算を予定しているため、通常のM&Aにおける表明保証条項等はあまり意味をなさないこと等を認識しておく必要があります。

再生型M&Aは、そのままでは事業が破綻し雇用も失われてしまうという苦境にある企業を救済するものであり、経営者、従業員、取引先等の利害関係人からとても感謝されることが多く、スポンサーにとってもやり甲斐があるはずです。

大阪は人情の街です。その後の商売でも有形無形のメリットが得られるのではないでしょうか。またモノづくり業界は、経営が上手くなくても「世界中どこにもない」技術を持つところも多く、それが失われるのは大きな損失です。

再生型M&Aにより、困った方々を助けつつ、自身の事業を伸ばす企業が増えることを期待しています。

(2024年4月25日号掲載)